【出世の科学】自分だけ昇進できない?シンプルな解決策

地位のある人 心理学

「同期は昇進したのに、なぜ自分だけ‥」

そんな理不尽な事が社会にはあり、くやしい思いをすることがあります。一方で、能力は「?」なのに昇進していく人を見る事もあり、エライ人たちは一体何を考えているのかと不思議になりますよね。

これに対して、心理学の研究から回答を探していきましょう。エビデンスを元に出した答えは、「コミュ力+いいヤツ+能力」という方程式です。これ以上理不尽な目に遭わなくて済むよう、エビデンスを元に出世の科学について学んでいきましょう。

社会的地位を得るには美徳と能力が大事

 2024年Psychological Bulletinに掲載されたMP Groszらの論文で、なんと100年以上の研究(!)をメタ分析(研究をまとめて分析する事)をしてくれたものになります。1)マジで助かりますね。詳細は以下の通り。

  • 地位を予測する仮説として4つの経路があり、支配経路・能力経路・美徳経路・ミクロ政治経路がある。
  • このうち能力と美徳は地位に影響している!
  • 支配経路のうち、体の大きさ自己主張ができるかといった要素は関係ありそうだが、敵対的な要素はむしろ地位獲得にマイナスになるかも
  • 能力経路のうち、外向性は地位と良い相関があった
  • これらの美徳や外向性・能力といった要素をうまくアピールしたり、見せかける能力も重要っぽい。これをミクロ政治モデルというが、この考えはどうやら正しそうだ

といった内容になります。これだけでは正直よくわからんと思いますので、これを元に解説&考察に入っていきましょう。

昇進していく人の特徴=コミュ力+いいやつ+能力

まず、大前提として社会的な地位を得るには評価者や他のメンバーから「この人の能力やチームへの考えは有益だ!」と思われないといけません。組織に貢献できる人にたくさん報酬と権限を与えるというのは当然の考えですよね。

そのためには能力も重要ですが、人格性といったものも持ち合わせている必要があります。確かにいくら有能でも私利私欲のためにチームを利用するような人がリーダーになったら大変です。

以上の理由から地位を得るには能力だけではなく美徳も大事なんじゃない?という仮説があるのですが、100年以上の研究を眺めた結果、これはどうやら正しそうだよとなったわけです。

高圧的な態度は地位とマイナス

その人格性と正反対の方法として、組織を威圧的に支配するというものがあります。スポーツの監督でもおっかない人がいたりするように、組織を治めるには支配的な態度で恐れられた方が良いのか?という問題はリーダーシップ論でもよく議論の的になります。

これに関して、社会的地位や昇進に関しては「高圧的だったり敵意を出すような態度はメリットがなさそう!」と言えます。この論文でも、リーダーシップにもどちらかといえばマイナスと出ており、尊敬・人気もマイナスになるとのこと。1)普段から「言うこと聞かないと怖いぞ!」というような態度を出すのはただのイヤな奴だと思われるだけで出世には繋がらないという事ですね。

チームをまとめようとしたり、仕事を進めるために引っ張らなきゃいけないという責任感の強い人が、急ぐあまり強引になりすぎると昇進しにくいという事が言えるかもしれません。上司も同僚もやらないから自分がやっているのに‥となると理不尽に感じるでしょうが、強引にチームをまとめようとすると出世には役立たないようです。

その一方で、支配経路の中でも自己主張に関しては一定の影響力・尊敬と相関がありそうです。ですから、適切な自己主張をするにとどめた方が良さそうです。たとえば、「私はこの案件は○○で進めた方がいいと思う!他にアイデアはないかな?対案がないならとりあえずそれで進めよう!」と積極的に意見を出してリードする程度であればむしろ昇進にプラスに働くだろうということですね。

これらをまとめると、「言うべき事を言う必要はありそう。でも怖い人である必要はなさそう」と言えるでしょう。出世して立場がついた時に言うべきことを言えないとチームはバラバラになりますが、締めるところを締めておきさえすれば良いのだと考え、昇進の為に強引になりすぎたり、無理にコワモテを演じる必要はないと覚えておきましょう。

コミュ力はやっぱり大事

能力としては、スキルや知識・頭の良さはもちろん大事で社会的地位と関係があったのですが、外向性というのはもっと大事かもしれません。外向性はチームをまとめあげる時にはもちろん、他部署や顧客など他集団との関係性にも影響します。他のチームと協力できたり、仲間を増やせるというのはそれだけでチームに有益です。逆に、仲間としょっちゅうケンカしたり、外に行く度に敵を作ってくるような人にチームを任せるわけにはいきませんよね。

ですから愛想よく笑いかけたりコミュ力発揮して協力関係を取り付けてくる事ができる人は「コイツは有能だ!」と思われるわけですね。この研究でも尊敬や人気、影響力にもプラスの関係があり、外向性の大事さが伺えます。

能力があって仕事もできるのに昇進しない、コミュ力はちょっと苦手‥という方はこの外向性に関する対策を行うと評価をされやすいかもしれません。過去記事ではエビデンスを元にしたコミュ力を高める方法を解説していますので、外向性とコミュ力を高めたい方はそちらを参照してもらえればと思います。

美徳は身につけておいた方がいい

さらに、善意の利他主義も影響力・尊敬・人気と相関があり、社会的地位と関係があるので身につけておいた方が良さそうです。もう少しわかりやすく言語化するなら、「他の人のために行動するいいヤツ」といったところでしょうか。

先ほどの支配経路の高圧的で敵意のある態度は社会的地位に役立たない(何だったら少し悪い)くらいでしたが、正反対の人格者は出世しやすいということですね。ある程度ゴリゴリねじ伏せていくような強引さがあった方が出世しやすいのでは?という意見もあるかもしれませんが、どうやらいい奴の方が出世には有利だと思った方が良いでしょう。

しかし、いい人なだけでは他人の人のために行動しすぎると食い物にされる事もあります。さらに悪い事に、いい人は不幸体質を招くこともあるので注意が必要です。もし昇進しない以外にも「不幸体質の気があるな‥」と感じるのであれば過去記事を参考にして対処した方が良いかもしれません。

以上の記事を参考にしてバランスの取れた利他主義を行なっていただければと思います。いい人(ギバー)というのは戦略的に与えないとと奪う人(テイカー)に食い物にされちゃうよ!というのはアダムグラント博士もGIVE & TAKEで言っていることですね。2)

上手なギブの方法についてはギブばかりで疲れてない?研究で学ぶギブアンドテイクのトリセツの記事も参考にしていただければと思います。

なんだかんだでアピール方法を学ぶ事は重要

そして、能力と美徳を持ち合わせていることは大事なのですが、ひょっとすると自己演出能力はそれ以上に大切かもしれません。

このことをミクロ政治モデルと言い、自己主張・外交性・自己監視(どう見られているか意識する事)は社会的地位と関係がありそう、というわけですね。やはり自分を良く見せたりアピールする事は出世や地位を得るためには必要です。

「えー、アピールとかなんだかセコい感じがするなぁ」

なんて感じる人もいるかもしれません。ですが、世の中はアピールしてナンボです。

あなたがテレビを見ているとCMが入りますよね?通勤時JRに乗っていても広告が目に入るはずです。本当に「良い商品なら勝手に売れる」と思うのなら、こんなアピールは必要ありません。同じように、あなたが素晴らしい能力や人格性を持ち合わせていたとしても、周りに知られない限り評価されることはありません

それでもアピールに二の足を踏んだり、良い印象が持てのはアピールの仕方が下手な人が多いという現状も関係しているかもしれません。確かに下手なアピールは評価にマイナスに働きます。このマイナスを回避して上手なアピールをするには「科学的に正しい自慢の作法」の記事を参照してください。

それから、自己監視(どう見られるかチェックする)においては、堂々とした振る舞いや喋り方ができるかをチェックする事が良いでしょう。これも過去に一人でできる!人前で堂々と話せる人になる練習方法好印象を与える姿勢の科学などでエビデンスを元にした振る舞いや喋り方の練習方法を紹介していますので参考にしていただければ。

古典的権力者のあり方、君主論では昇進できない

地位やリーダーのありかたとして、ニッコロ・マキャベリの「君主論」があります。これはパワー系のリーダー論であり、今回参考にした論文の分類であれば支配経路にマン振りしたものですね。

マキャベリくんの意見をざっくりまとめると、「冷淡でもやる事やんなきゃダメ!信義?なにそれおいしいの?」といったものです。威圧的に支配してリーダーシップを取る考えは温かみといったものとは対極に近く、心理学でも「マキャベリズム」という言葉がありますが扱われる場合は主に悪い意味です。

地位を得るには君主論は古い、現代版にアップデートが必要

では、昇進する為に、あるいは立場を得た人はマキャベリくんの言うように冷淡で恐れられる必要があるのでしょうか?

私の答えはNOです。そもそも君主論がバズったのはマキャベリの生きた動乱の1500年代であり、令和の時代に即しているかは全く別問題です。今回参考にした論文からも近代、少なくともこの100年はリーダーに寛大さや優しさが重視されるようになったと考えた方が良いです。マキャベリくんの言う事を現代で真に受けるとやはり昇進できません。

しかし、君主論に書いてあることで現代に通じる箇所ももちろんあります。

君主論には能力・美徳経路の重要性も書かれている

たとえば、「能力を訓練しておく必要がある」「美徳を身につけているように振る舞う必要がある」などは今回の能力・美徳経路に関する事柄の重要性にも触れられており、「振る舞う必要がある」重要性においてはミクロ政治モデルを反映していると言えるでしょう。ここは500年前と変わらないわけです。

ですから、君主論は現代の昇進・出世戦略やリーダーシップ論として使える点もあるのです。ただし、その中の冷淡さや恐れられた方が良いという支配経路に関する点においては大幅に修正が必要です。私たちは君主論を現代版にアップデートする必要があると言えるでしょう。

たとえば、君主論の能力や美徳経路に関する記載は参考にし、言うべき時にはっきり言うという自己主張さえできればマキャベリくんの言うような冷淡さは必要はないので読み飛ばして良いでしょう。なにせ冷淡さは出世にマイナスに働く可能性の方が高いのですから。

なお、君主論を学ぶにあたっては架神恭介著のよい子の君主論がおすすめです。小学生が謀略を使ったり吸収合併したりしながらクラスの君主を目指してしのぎを削る、というストーリーで君主論のえげつなさを緩和しながらわかりやすく解説をしてくれている良書です。「クラスを牛耳りたい良い子のみんなも、お子様に帝王学を学ばせたい保護者の方も、国家元首を目指す不敵なあなたも必読の一冊」という煽り文句はマキャベリくんの意向そのものですね。解説で時折出る口の悪さなど、シンプルに読み物としても面白いです。

繰り返し振る舞いを練習していく

これまでの対策を行えば、少なくとも不利な評価をされる可能性はグッと減るはずです。振る舞いや行動というのは変えるのが難しいですが、その分見返りが大きいとも言えます。

振る舞いは身に着けるまで時間がかかりますが、自転車に乗る練習ように無意識に体に染みついていきますので、「今日は外向性のコールドリーディングについて身に着けられるように読み返して、職場で意識をしてみよう」など読み返しながら一つずつ身に着けていってみてください。ファイト!

引用・参考文献

1)Grosz, Michael P., Robbie van Aert, and Mitja D. Back. “A meta-analytic review of the associations of personality, intelligence, and physical size with social status.” Psychological Bulletin(2024).
2)Grant, A. M. (2014). GIVE & TAKE: 「与える人」こそ成功する時代. 日本: 三笠書房.
3)Niccolò Machiavelli.(1532).Il Principe
4)架神, 恭., 辰巳, 一. (2009). よいこの君主論. 日本: 筑摩書房.

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