なぜ寛容だけではいけない?人間関係はしっぺ返し戦略が良い理由

険しい顔で議論する人たち 心理学

相手のある事だから、きれいごとだけでもうまくいかない

人間関係は計算しないとうまくいかない

「なんでわたしばっかりこんな目に‥」

 そんな風に思ったことはありませんか?

 あなたのように繊細で優しい人もいれば、世の中には人の気持ちを考えられず迷惑をかけてくる人もいます。社会にはトラブルを起こす人や、他者を尊重できない人もいるのが現実です。あなたも誰かの顔は思い浮かんだのではないでしょうか。

 さて、私たちはそういう困った人に対してどう対応するのが良いのでしょうか?あなたは立ち向かいますか?それとも寛容に我慢するタイプですか?

ゲーム理論では人間関係はしっぺ返し戦略がいい

鏡のように跳ね返すのね!

 この問題に対し、ゲーム理論(複数の立場が絡む状況での戦略を数理モデルから考える学問)ではしっぺ返し戦略(tit for tat)がよろしいとされています。しっぺをされたらしっぺし返すということですね。

 しかし、日常生活でやられたらやり返だけではスマブラ状態になり収拾がつきません。お互い消耗してしまいますし、時に人間の心というのは揺らいでしまうものです。あなたも友達とトラブルになったとしてもちゃんと仲直りしますよね?お互いしっぺの応酬というだけでは一回ゴングが鳴り響いたら取集がつかなくなります。こんなことをしていたら体がいくつあっても足りません。

 ですから、このしっぺ返し戦略のうまいところは「しっぺされたらしっぺし返すが、相手が協力してきたらこちらも協力する」というルールで行動するというものです。感情的に意固地になるわけでもなく、ちゃんと切り替えができる寛容さも兼ね備えたバランスの取れたルールです。
 つまりまとめると、こういうことです。

 最初は協力から入る。そのあとは、相手がしてきた事を真似て鏡のように行動する(協力に背いたらにはこちらも背き、協力には協力でまた返す)

 これだけでめんどうな対応をしてくる相手には「これ以上やらない方がいいな」と感じさせることができますし、お互い得をしない事を学習させることができます。逆に、協力してくれる相手にはこちらも協力を返しますから利益しかありません。面倒な行動をしてくる相手を抑え協力へと促せる上に、最初から協力する人とは関係を深め仲間をさらに増やすことができるのです。素晴らしい!

 このしっぺ返し戦略により、アダムグラント博士の言うところのテイカー(奪う人)に食い物にされるボトムギバー(与える人)2)になる事を避ける事ができます。人間関係は相手がある事ですから、ただ優しいだけではなく「したたかな行動戦略」が必要だと名著「GIVE & TAKE」内で述べられています。この本は組織心理学の教授がただ与えるだけじゃダメだよ!でも頭を使う与える人は成功するから戦略を学んでね!という事について書いてくれていますので、ただ尽くして疲れてしまっている人は一度読む事をおすすめします。

 まず普段はニコニコして愛想よく協力を、そして背いた扱いには反論できる力をつけておくというのはスマートな方法でしょう。優しさや許容する事は大事ですが、どこかで線引きをしなければなりません。

背いた扱いをされても寛容だと、より背いた行動をされる危険性も

とんでもない話だけど、これが現実

 これをさらに研究したものとして、協力が不釣り合いな関係がどのように発生するのかを調べた2019年の東京大学のFujimotoらの研究があります。1)この研究によると、最初は対等な二人でもちょっとしたきっかけが元で吸い上げる側はより吸い上げるように、許す側はより許すことに従順になっていったという内容です。

 このことについて著者は「始めは似たような戦略を取っていた両者が相互に学習を行う事で、戦略の差が増幅し定着すると言っているんですね。もっとわかりやすく言えば、対等な二人がちょっとしたきっかけで片方はジャイアニズムがええやんと学び始め、片方は無気力なのび太状態に慣れてしまうといったところでしょうか。

 となると、やはり協力に背いた扱いには毅然と対応するというのが良さそうです。もちろんどう行動するかは個人の価値観の問題ですし、寛容で優しい人には勇気がいる事だとは思います。そしてノーと言う事で負のループを発生させない事も選択肢の一つかもしれません。

 寛容で協力に背いた扱いを許しすぎた結果、その終着点がいわゆる不幸体質と呼ばれると私は思います。ここまでいくと目の前の人との関係だけの問題に留まりません。長期的に周囲の人間関係がどのように変化していくかは不幸体質の直し方の記事に記載していますが、どこかで負のループを切らなければならないでしょう。

心から信頼できる人を見抜くためのサインなども知っておいた方がいいかもね

引用・参考文献

1)Fujimoto, Yuma, and Kunihiko Kaneko. “Emergence of exploitation as symmetry breaking in iterated prisoner’s dilemma.” Physical Review Research 1.3 (2019): 033077.
2)Grant, Adam, 楠木建. GIVE&TAKE : 「与える人」こそ成功する時代. 東京, 三笠書房, 2014

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