この記事まとめ
・推理力が高い人は、必ずその推理が間違っているか確かめる事ができる方法で考えている。陰謀論者や占い師などは確認しようがない主張をするため、推理力は低くなる。ただし占い師はコールドリーディングという話術を使っており、「何を言えば相手に当たったと思わせる事ができるか?」という推理力に長けている。
あなたは推理力が高い方ですか?
この答えにあなたはどう答えるでしょうか。「どうだろう‥」そう悩む人もいるかもしれません。‥悩んだあなたは、推理力が高い資質があるかもしれません。
それは、バイアス(偏見や思い込み)に強いからです。人間の推理力は暴走する事があり、あなたはその暴走への抵抗力が高い可能性があります。
今回は推理力がある人になるにはどうすればいいかという科学的な思考法を学んでいきましょう!
推理力が高い人と低い人の違い
まず最初に、推理力がない人とはどんな人か考えてみましょう。たとえば、陰謀論にハマっている人が推理力高い人か?と聞かれればそうではありません。幽霊やオカルトがいると主張する場合もそうです(幽霊が存在する・しないの問題ではなく、推理力の話です)。
推理力がある人の話には「覆る可能性」がちゃんとある
なぜかというと、証明する事ができないからです。正確には意見が間違っているか確認しようがないからです。
たとえば陰謀論なら、陰謀を行っているという証拠が見当たらなくても「悪の組織が巧妙に隠しているからだ」と言われればそれ以上反論ができなくなります。証拠があれば、当然陰謀を行っている。証拠が無くても隠しているからであって、やはり陰謀を行っている。結論は一緒です。
幽霊にしても「あなたが気づいていないだけだ」と言われれば意見が間違いである可能性がなくなります。幽霊が存在する証拠があれば、幽霊は当然いる。幽霊が存在する証拠が無くても、受け取り手が気づいていないという問題なのでやはり幽霊はいる。
この手の話は主張する側にとって負ける事のない、無敵の論理というわけです。これを科学の世界では「反証可能性がない」といいます。わかりやすく言えば「確かめられない事って疑似科学なんじゃねえの?話聞かなくてよくね?」みたいな事をカールポパーという頭のいいおじさんが言ったわけです。
「反証可能性がなくても無敵の論理ならいいじゃん。オレ、ひろゆき好きだし」と思う人もいるかもしれません。ですがこの無敵の論理だけで社会を泳ごうとすると、問題が発生しやすいです。その問題とは、相手に話を聞いてもらえないという事です。
コナン君には反証可能性がある
たとえば、私は名探偵コナンが好きなのですが、もしコナン君が犯人を追い詰める推理場面で下記のようなセリフを述べたらどうでしょう。
コナン君「いや、証明はできないんだけれど、この人が犯人なんですよ。いやマジで」
これでは誰も納得しないでしょう。子供のたわごとです。
しかし、実際のコナン君はもちろん違います。コナン君の推理に対して犯人は「ちょっと待ってくださいよ、私はあの時○○にいたんですよ。私にできるわけがないでしょう。証拠でもあるんですか」と反論をするはずです。ちゃんとコナン君の推理には反証可能性がある、つまり確かめる方法があるということです。
その犯人の反論に対して、コナン君はちゃんと論理立てて、それを証明する材料を集めて、「あなたの話はウソであって、このような証拠があるからあなたがやったという事を証明できるのです」という話を(おっちゃんの陰から)しているのです。さすが名探偵。私達もコナン君のように反証可能性のある推理をしましょう。
社会で推理力を発揮できないと子供のたわごとになる
つまり、「自分の意見が間違っているかどうかを確認できますよ」という思考こそ「推理力」の源なのです。それが確認できない場合、ただ思い込みの激しい人というレッテルを貼られます。苦労しそうですね。
この推理力というものは、犯人を追い詰めるだけではなく日常生活でも使えます。むしろ、私は(たぶんあなたも)高校生探偵ではないので日常生活でこそ推理力を使うべきです。
日常生活での推理
たとえば、ものを無くして困っている人がいたとすれば、まず最後に見たのはどこか聞くはずです。その地点から今の位置のどこかにある可能性が高い、と推測するのが妥当です。この考えが間違っているか確かめるには実際に調べてみればよいですよね。
もし無かった場合、人間の脳には復帰抑制という注意が逸れやすいポイントがありますから、一度探したところの周辺を含めてもう少し意識的に探してみようという次の推理が行われます。この考えが間違っているかどうかは、たとえば人を変えたり、少し自分の注意を逸らしてから探し物が出てくるか確かめてみればよいのです。
それでも出てこなかった場合、そもそも記憶違いの可能性も立ち上がってきます。たとえば目撃証言の正確性というのは思った以上に低く、人間はリアルなニセの記憶を生成することがあります。その推測が正しいかどうかは、また範囲を広げて捜索してみるという方法で確かめる事が可能です。
推理力とは観察力と軌道修正力の事
このように、推理力というのは「これが正しいのだ!」と一度でスパっと確定できるものではなく、観察して軌道修正しつつ、少しずつ真実に近づいていくという認識の方が正しいです。ウソをみやぶる時も、一度では決めず何度も検証します。
なぜなら日常生活で推理力が要求されるのは、人間や環境が複雑に絡まり合った難しい状況です。その時にスパっとわかりやすい話に飛びついて確定してしまうのは陰謀論的な思考であり、何度も推理を重ねてじわじわと真実に迫るのです。「あの人ああ見えて○○とかやってるらしいよ、信じられないよね」といったうわさ話に翻弄される人もこの傾向があります。
ですから、この記事の最初で「推理力がありますか?」と聞いた時に「どうだろう‥」と悩んだ人は、一度で結論を確定しない傾向がありますから推理力が高いようだ、と私は推理したわけです。これが間違っているか確かめるには、「あなたは新しい情報を求めるタイプですか?」「最初の意見にこだわらず考え直すことが多いですか?」といった質問で真実に迫る事が可能です。記事では返事が聞けないのが残念ですが、あなたはどうでしょうか?
占いと推理力の違い
さらに例として、占いは「何を言えば当たったように思わせられるか?」という推理であって、「未来を当てる」推理はできません。この理由について考えてみましょう。
占い師の必殺技、「アドホックな仮説」で推理はできない
占い師(あるいは私達)は予測が外れたのに「当たった!」と言い張る事がよくあります。‥いいえ、むしろ最初から「外れた」という現象が起きないように無意識に曖昧な予想をするのです。例えば、
あなた、季節の変わり目までに新しい出会いがありますよ。
その出会いを絶対に逃しちゃダメ。いいですね?
こう言われた場合、ひょっとしたら素敵なパートナーとの出会いかもしれませんしビジネス上の出会いかもしれません。Xでの有益な情報をもたらす人との出会いかもしれませんし、テレビで見た面白いインフルエンサーの事かもしれません。今この記事と出会ったことかもしれません。生きている限り常に何かしら新しい出会いはあるのですから、この予想が外れる事はありません。
なんだったら「二度とこない今日という日との出会い」だっていいのです。何も思いつかなければ、「出会いはあったのだけれど、あなたが逃しちゃったのよ。あれだけ言ったのに」「季節の変わり目は夏じゃなくて秋じゃない?いや、来年かな?ぼんやりしててわかりませんが、心当たりは?」と後から言えばいいのです。無敵です。
これをアドホックな仮説と言い、わかりやすく言えば「言い訳」「後出しじゃんけん」です。先ほどの反証可能性を弱めるため科学でこれを乱用すると非常に渋い顔をされます。
アドホックな予測を使えば予測が外れる事はありませんから、推理力は向上しません。完璧だと思っている人は改善するポイントがありませんから、いくら経験しても能力はそのままです。よって、占い師が経験を積んでも未来を予測する能力が高くなることはない、ただの人というわけです。
ただし、「コールドリーディング」という話術で心を推理する
じゃあ占い師はでたらめなのかというとそうではありません。占い師はコールドリーディングという手法を用いて、「どうすれば相手に当たったと思わせる事ができるか?」という推理を(無意識かもしれませんが)しています。
先ほどのアドホックな仮説を用いた話術はコールドリーディング1)と呼ばれる占い師の手法の一つで、テクニックとして体系化されており練習すれば誰でもできます。いわば占い師のマニュアルで、占いとは人間の思い込みやバイアスを使ったエンターテイメントなのです。
これを使えば占いはもちろん、日常生活で「相手が何を考えているか?」「この人は何を悩んでいるのか?」について心を読んだかのように振る舞う事もできるでしょう。これには当然、推理力が要求されます。
なぜなら、人間の思い込みやバイアスは似たような傾向があるからです。この相手の考えを読む練習方法については私のコールドリーディングの記事も参考にしてください。
この時、練習する前にリーディングの仕組みやテクニックが網羅されているイアン・ローランド著「コールド・リーディング」は読んでから行う事をおすすめします。リーディングではどういう言い回しをすればいいのかわかりますし、コールドリーディングはヘタするとものすごくうさんくさくなりますので、基本やテクニックの種類を知っておく事は重要です。帯に書かれていた「FBIも心理学者も認めた相手の信頼を得る会話術のバイブル」は伊達ではありません。
このテクニックを組み合わせて相手から情報を集め、「当たっていると思わせる方法」を占い師は習得していきます。この推理力に関しては経験する事によって向上していきます。
推理力を高めるコツは、外れた事を確認する
本当に推理力を高めたければ、何度も繰り返すようですが明確に当たったか外れたかわかる方法で仮説を立てます。
予測精度を高められる良い仮説の立て方
仮説:私は今年の夏までにステキな男性と出会い、お付き合いできます!
これは明確に当たり外れがわかります。実際夏になって一人かどうかを確認すればいいのです。ただし結果が明確な分外すとキツイです。周囲から「ほら言わんこっちゃない」「口だけ」「希望だけは一人前」とか言われ、メンタルやられます。
ですが、これがただの希望的観測なのかそれとも妥当性があるのか確認するためには痛みを伴っても夏に現実を確認しなければなりません。
これを繰り返すことで、「ああ‥あれはただの私の希望的観測でしかなかったんだ‥」と理解し、より現実的な判断に修正していく事ができます。ならば、「試行回数が少なすぎる。物量で突破しよう」「私に3代目JSBレベルをイケるスペックはない、イケメンは3日で飽きる。今市隆二にこだわってはいけない」など、夢から覚めるわけですね。つまり
外した時のキツさを知っている≒学習が適切に進んでいる
という事です!
もっと良い科学者の仮説の立て方
この予測ができるようになって、もっと厳密に予測をレベルアップするなら、
夏までは3か月あるから、今までの経験から一つの出会いの場に行く度に素敵な男性と出会って付き合う確率が10%あるとしましょう。となると、一か月に3~4回出会いの場に行けば、夏までに60~65%くらいでお付き合いできるし、少なくとも25%くらいは複数の男性から選べるってわけ。ドゥフフ(早口)
と不確実性を織り込んだ予測をする方が予測精度が高まりやすいです。なぜなら、未来についてわかるのは確率だけだからです。何度も言いますが、この世界は複雑すぎて確実な未来予知などできません。この不確実性を織り込むには少し訓練が必要ですが、ここまで来ればあなたも立派な予測者であり、科学者です。
よく「数学は儲かる」みたいな話がありますが、それは別に掛け算が速くてカッコいいからとかそういう話ではなく、数字を使って検証することで予測精度を高めていけますから、経験則だけの人とは開きが出るという意味だと私は考えています。その点統計学までできるとやはり強いですね。
ですから、私のブログでは論文をベースに記事を書いていることが多いんですね。科学の世界では当たり外れがわかるように結果を確認しますし、どれくらい不確かなのか、という点までわかりますから。
科学において占いのような「後付けの説明」はご法度
推理力向上のためには先に仮説を立てないといけないと述べましたが、お分かりの通り占いの未来予測とは正反対です。後から理由をじゃんじゃんつけて、解釈で答えを捻じ曲げます。結果を見てから説明するというのはそれほど信頼性の低い推理なのです。
私は科学には占いよりも現実を変える力がある!と思うので科学を使いながらつらい現実を直視して成長する事を選びます。しかしこれは価値観の問題であり、あくまで私の一意見にすぎません。
しかし、もしあなたが科学の力で道を切り開くタイプなら‥他の心理学の記事に役立つものがあるかもしれません。このサイトで役立つものを探してみてください。
引用・参考文献
1)Rowland, Ian, 福岡洋一. コールド・リーディング : 人の心を一瞬でつかむ技術. 第二版, 立川, 楽工社, 2023, ISBN9784903063959.