この記事のまとめ
・人はよく自慢に愚痴や自虐を織り交ぜる「謙虚な自慢」で自己アピールするが、これは見透かされており非常に印象が悪いという研究がある。対して上手な自慢をする人は、ストレートで誠実さを中心としたアピール戦略を取る。
自慢が鼻につく人っていますよね。
世の中は自慢の作法を間違えている人があまりにも多く、「痛い人」になりがちです。
痛い人は自分で評価を下げているだけなので放っておいて大丈夫です。私たちはエビデンスから学んで、正しいアピール作法を身につけましょう。沼に沈んでいく彼ら尻目に、スイスイと世の中を泳いでいこうではありませんか!
中には「え!?これダメなの!?」というものもあると思いますよ。
痛いアピり方だけはなんとしてでも修正しよう!
みんな謙虚に自慢やアピールをしようとして裏目に出まくっている
今回参考にするのは2022年のO Sezerらの研究になります。「みんな印象操作しようとして裏目に出まくってね?」という内容です。1)
アピールする時に「オレすごいんだぜ〜」という露骨なアピは傲慢に見えるの誰もやりません。ではどうするかというと、傲慢さを隠して巧妙にアピろうとします。つまり露骨ではなく「匂わせ」アピールをするわけですね。
その匂わせる戦略がことごとく裏目に出まくっているから、お前ら気をつけろよ!というのがこの論文の結論ですね。詳細は以下の通り。
- 他人から好かれたいという気持ちと、尊敬されたいという気持ち。人間にはこの二つの希望があるが両立させることはかなり難しい。
- 好かれるだけだとステータスが低く見え、尊敬されるだけだと好かれない。この二つは基本的にトレードオフの関係にある。
- だから人は両立させるために「謙虚に自慢」する作戦を取る。自慢に自虐を入れたり、叱るときにサンドイッチフィードバックをしたり、嫉妬を避けて成功を隠したりする。
- これらの戦略全てが好意・敬意ともに得られない。ストレートの方がマシ。
謙虚な自慢は印象が悪い
まず「謙虚な自慢」をもう少しかみ砕いて解説します。自慢に自虐を入れたりするのですが、これはもう例を見てもらった方が早いです。
「いやー、マジで忙しいわー。オレしかできない仕事溜めちゃったせいで今日も残業だわー。ちゃんと考えてなかったからなー。他の人はできない仕事だしマジでもっと早くやればよかったわー」
みたいなやつです。ほらイラっとしたでしょ?笑
一見愚痴や自虐に見えるのだけれど、本当に言いたいことは「オレしかできない仕事」「優秀なオレ」ですから、いらだつのも当然です。この戦略は非常に不誠実に見え嫌悪感を抱かれ、能力で低く見えるとのこと。何も言わない方がマシですね。絶対にこれだけは避けましょう。
あなたがこの謙虚な自慢をするくらいなら
私忙しいです。優秀なので
と言った方がマシです。確かにそれくらいスッキリ言われるとかえって信用できそうですよね。
サンドイッチフィードバックもいい人ぶっているのでダメ
サンドイッチフィードバックってなんぞや?と思ったかもしれません。これはよくコミュニケーション研修で教えられるもので、「褒めて→指導して→褒める」とネガティブな指導をポジティブで挟む方法ですね。
部下の指導はサンドイッチで指導しましょうね(はーと)
私もこのように研修で教えられた経験があるのですが、これもダメだそうです。これも指導される側になって考えればわかりますので例を出しましょう。
「君はいつも頑張っているけど、この件については前も指導したよね、日付がないと決済できないんだから今度からちゃんと最後に見直してくれ。君には期待してるよ」
なんか取ってつけたようにいい奴ぶってる感じです。おまけに偉そうですし。「言いたいことあるなら結論だけ言えよ」と思います。実際この方法は指導として有効ではなく関係性も損なうとのこと。これでは何の為に指導しているのかわかりません。関係性を壊したくなければこれもやらない方がいいでしょう。
成功や高いステータス(立場)を隠すのもダメ
また、「自分だけ幸せなのは妬まれるから」と成功や立場を隠すというのもよろしくないようです。
「えっ。気を遣っているのに?」と思うかもしれませんが、これもやられた立場になって考えてみましょう。
「あなたテストどうだった?私?いやー、全然準備してなかったから私もダメだったわー、全然ダメだわー」
こう言われた上で98点とか取ってたらどう思います?いらだちませんか?笑
この背景として、「自分が成功している事を言ったらこの人に妬まれる」と思う事自体が相手の器の勝手な決めつけです。さらに隠し事があるとよそよそしくなるので振る舞いもどこかうさんくさくなってしまうので誠実ではないと感じられるとのこと。
この論理でいくと、徳川吉宗がお忍びで城下町の庶民と仲良くというのは心理学的にはキビシイと言えるでしょう。まあ上様の場合はバレたらお城に戻らなきゃいけないですからね、江戸の町のみんなも許してくれるでしょう。というわけで、あなたもお忍びでない限りは成功や立場は聞かれたら正直に伝えた方がいいでしょう。
このように「謙虚な自慢」というのは一見自慢を緩和する良さそうな戦略なのですが、むしろ能力が低く不誠実な印象を与えまくっているのです。この手の自己アピールのせいでアピールそのものの印象まで悪くなっています。何度も言いますが、これらの「謙虚な自慢」は自己アピールではなく、イヤミという日本語に近いです。
科学的に上手な自慢とは、「誠実さ」をアピールする戦略を取る
ではどうすればいいのか?というとこの論文では「誠実かどうかが大事!」というシンプルな結論を出してくれています。
研究でも信頼してもらうためには「誠実さ」が必要だった
これは別にきれいごとではありません。人が信頼してもらうためには三要素が必要で、その一つに「誠実さ」の要素がどうしても必要です。あなたは有能だけれど誠実ではない人に好感を持ちますか?高く評価しますか?「そんな人は協力してくれなさそう、距離を取ろう」と思うはず。そういう事です。
成功や能力を自分からひけらかす必要はありません。ですが、聞かれたら自分は成功している、この点には自信があるとストレートに言えばいいんです。指導するときは直してほしい所を言えばいいんです。
「実は今年昇進してさ、頑張ってきたことが評価されてすごく嬉しいんだ」
「私、今回のテストは対策もできたし98点。うまくいったよ」
「この日付が抜けてるから直してね。最後にチェックしよう、気を付けてね」
どうでしょうか。イヤミな感じはありますか?自慢しやがってなんて思うでしょうか。むしろ誠実で信頼できそう、この人の事なら祝いたい、指導を受け入れたいと思うのではないでしょうか。
世渡り上手はアピール上手であり、上手なアピールは勇気がいるかもしれませんが潔いものなのです。世渡り上手にはこの潔さがあり、だからこそ仲間が集まり助けてもらえるのです。
ネチネチした「謙虚な自慢」は、私たちの中では今日から禁止にしましょう。
世渡り上手を極めたのが田中角栄
結局、世渡り上手な人は信用される人かどうか、誠実性なのです。それなのに相手の事を「妬むだろう」とか「低く見られないように自慢をしよう」と思うからこじれるのです。
自己アピールに悪い印象があるのは、そういった小細工は見透かされているからです。アピールするなら直球勝負+誠実性。つまり相手に対して配慮や高潔さがあるかという点につきます。
この世渡り上手の典型例としては田中角栄が挙げられるでしょう。田中角栄は資金を届けさせる時に、
「カネを渡すなら頭を下げて渡せ」
田中角栄 相手の心をつかむ「人たらし」金銭哲学 向谷匡史
「”どうか納めてください”と先様に土下座するくらいの気持ちでやれ」
と言って資金を届けさせたそうです。普通なら資金を援助したという事でオレは頼りになる、助けてやったんだと相手にも周囲にもアピールしたくなるところですが、田中角栄は一言も言いません。資金を使ってくださいと下手に出て相手のプライドに配慮したという優しさや誠実さ以上の自己アピールはなく、相手は感激します。
ここで「オレも立場があるからお前のため大金をあげないといけないな、まったく困っちゃうよ」と器のデカいオレアピールをするようならここまでの人物にはなっていないでしょう。
中卒で総理大臣まで登りつめたのは伊達ではなく、人の心をつかむことにおいても田中角栄は非常に頭が切れます。究極の世渡り上手と言っても過言ではないでしょう。
田中角栄にはこのような世渡り上手・人の心をつかむエピソードが多いので参考にしてみてください。たとえばあなたがプレゼントを一つ渡すにしても、渡し方や言い回しをちょっと学ぶだけで、とても器が大きい粋な人だと思われるでしょう。「田中角栄 相手の心をつかむ「人たらし」金銭哲学」などで実際のエピソードや言い回しを学んでおくと「人たらし」の上手なアピールが勉強できます。
結局、「ここは印象を良くするためにまず下手に出てから自慢をすれば謙虚さをアピールできるぞ」というような事はみんな考えるのです。みんな考えるから小細工はバレバレ。ですから、下手な自己アピール≒謙虚な自慢であり、誠実に見えるアプローチを取るのが正解と覚えておきましょう。
引用・参考文献
1)Sezer, Ovul. “Impression (mis) management: When what you say is not what they hear.” Current opinion in psychology 44 (2022): 31-37.
2)田中角栄 相手の心をつかむ「人たらし」金銭哲学,双葉社,2016.向谷匡史