この記事一行まとめ
・カリスマリーダーは長期的で夢のような目標を掲げ、外的報酬は使わない事に特徴がある
人を巻き込むのが上手い人って何をしているのでしょうか。
それもただ巻き込むだけでなく、みんながやる気を出してくれています。もし私達も彼らがどんなやり方をしているかわかれば、望ましい方向へみんなを導くこともできるはずです。
そんなカリスマリーダーになるために何をすればいいのか、エビデンスを元に解説していきましょう!
人を巻き込むのが上手くないと、カリスマも宝の持ち腐れ
過去の記事でスピーチが上手い人に特徴的な話し方について書いてきましたが、これだけではただの有能っぽい人にすぎません。仕事でも有能だと思われるだけではいつまで経っても「便利な部下」止まりです。
人を巻き込んで導くには今までのようにただ振る舞いや喋り方に気を付ければいいのではありません。他人を「あなたの描く世界にどうやって人を導くか」を理解する必要があります。
今までは説得力がある声や知的な雰囲気を身に着けるといった(悪く言えば小手先の)テクニックでしたが、仕事などで人をまとめなくてはいけない立場であれば、これに加えて自分の思う方向にどうやって導いていくか、という作戦が要求されます。
カリスマ型リーダーはどのような方法で人を巻き込んでいくのか?
時間はかかるけれど、ずっとやる気を出し続けてくれる方法なの
Shamirらのカリスマリーダーに関する論文では、リーダーとフォロワー(部下などですね)がどのような関係で、またどのようにリーダーがフォロワーのモチベーションを保ち望ましい行動を促していけるかを考察してくれています。1)この論文で述べられているのは以下の通りです。
- 「努力することは素晴らしいのだ!」「みんな立ちあがろう!」といったメッセージで努力や前向きな姿勢を集団のアイデンティティとして押し出す。あるいは、新しく望ましいアイデンティティの概念を作り上げる(少数派の人に対して「選ばれし精鋭」というような感じですね)。
- すると、努力する事が集団の中で価値のある行動となり、「努力してチームに貢献している私は素晴らしい人間だ!」「その考えを実行している自分を誇りに思う!」と個人のアイデンティティも変化する。これがより強まると「チームのために努力する自分はヒーローだ!」と英雄的な動機が発生する。
- すると、フォロワーの利己的行動は減り、集団利益になる行動が増える。
- フォロワーのモチベを保つために、自尊心や自己肯定感を高める声かけをする。「君ならできる」「君は正しい」などの声掛けをする。
- モチベを保つために外的報酬(お金とか)はNG。内的な動機によって行われるようにする。その為には長期的で夢のような、ユートピアを目標を掲げる。
- 高レベルのコミットメント(仕事等への参加)を求める。行動する事は手段だけではなく「自分がどういう人であるか」にも影響する。この時に自分からコストを払う行動をすると2.の自己概念はさらに強化される。
「どういう人間になりたのか」を動機にする
一貫してキモになっているのはフォロワーのアイデンティティであり、フォロワーが「自分はどういう人間なのか(なりたいのか)」から変化させ、自ら好ましい行動へとつなげていく事が大切というわけですね。これは厳格な管理下に置くリーダーシップや、インセンティブによる意欲の高め方とは全く違うものになります。
言ってみれば、「人道的で誇りある組織の一員で、自分は素晴らしい人間なのだ!」と感じたい、最終的にはその考えと一体化するために行動するという事ですね。その考えに共感させて巻き込んでいくのです。
「手が空いた時に他の人にフォローに回っていたね、チームワークが大事だ。素晴らしいよ!」 「いつも新しい情報を持ってくれると助かるよ!私たちのチームはパイオニアでありたいからね」
このように、チームにとってあるべき価値観を押し出し、誇りを持ってもらうわけです。いわゆるやりがいというものに近いかもしれません。
報酬やご褒美は邪魔になる!
この時に報酬は邪魔になります。よく表彰などで商品とか賞金が出たりすることがありますが、確かに人間の動機付けにおいて報酬は重要です。私もお金が出ると急に勝負強くなります。しかし、このフォロワーのアイデンティティを変えようと思った時には報酬はむしろ邪魔になります。なぜなら、インセンティブがあることで、
「自分はこういう人間になるために頑張っているのだ!」
という動機が、
「自分は報酬をもらうために頑張っているのだ!」
に上書きされてしまうのです。となると、「お金が出ないなら頑張らなくてもいいか」となってしまいます。これを内的報酬・外的報酬と言うのですが、外的報酬(ご褒美)によるモチベーションは長続きしないという点で好ましくないのです。
例を挙げるなら、サッカーチームでみんなに献身的なプレーをしてほしいとしましょう。この時に、
「今日、佐藤くんはすごく献身的なプレーをしていたね。得点には直接かかわっていないように見えるけど、毎回佐藤くんの体を張ったプレーがチャンスメイクやピンチをしのぐきっかけになっている。これこそが僕たちの目指すチーム像だ、その意味で今日の佐藤君のプレーは象徴的だった!」
こう褒める事はプラスになります。この言葉に感化されてそれならオレもその目標に向かって頑張ろうと思ってくれるチームメイトもいるはずです。ですがもっとやる気を出させようとして、
「だから、キャプテン賞として佐藤君くんには僕からジュースを一本あげよう!みんなも献身的なプレーを中心として次の試合も頑張ろう!」
こう言ってしまうとモチベーションアップは長続きせず、献身的なプレー定着には繋がりにくいのです。まさに蛇足と言えるでしょう。
途方もない目標を掲げる事のメリット
面白いのが「具体的な目標や短期的なゴールは設定するな!」と論文内では言われているところ。これは目標達成で推奨されている事とは正反対に近いです。目標を達成するには具体的な短期目標を設定し、達成できなかったら何が足りなかったのか?という事を分析し振り返った方が良いはずです。
しかし、カリスマリーダーシップにおいて短期的な目標を達成してしまうとその達成自体が報酬になってしまいますし、達成できなかった場合カリスマ性は失われてしまいます。
先ほどのサッカーの例で言えば、
「来月いよいよ大会がある。いつもの献身的なプレーを続けていけば、この大会で県内ベスト4には入れる!今日の練習も気合い入れていこう!」
そう力説するとカリスマ性があるように見えます。少なくとも次の試合まではそうでしょう。しかし勝負は相手あってのこと、相手も厳しい練習を積んでいる以上、確実な保証なんてありません。仮に勝てなかった場合はどうでしょう?
「キャプテンはああ言ってたけどさぁ、結局勝てなかったわけじゃない」
残念ながらこう思われてしまうのが現実です。ですから、目標を提示する時は以下のようなものの方が望ましいです。
「来月いよいよ大会がある。ウチのチームは献身的なプレーが強みだ。俺たちは終盤でも足を止めないし、厳しい場面でも役割を全うする。それが俺たちだ。来月は相手に俺たちが最高のチームであることを見せつけてやろうぜ!」
足を止めないとはどれくらいなのか、役割を全うするとは何なのか?最高のチームとは何なのか?正直フワッとしていてよくわかりませんが、とにかくチームの為に身を捧げて試合に貢献しろというメッセージだけは伝わります。このキャプテンの元で仮に負けたとしても、「これはまだ最高のチームへの序章にすぎん。第二章のスタートだ」とか言いながら次の試合へファイトを燃やしていくわけです。
このあたりの言い回しは海外の方は非常にうまいです。政治家でなくとも、プロ野球選手のC・カーター選手は試合前の声出しで以下のような声掛けをしています。
「勝者と敗者の間には、1センチの差しかない。俺たちはチャンピオンを目指すチームだ。きょうはチャンピオンのように闘おう。チャンピオンは、あきらめない」
https://number.bunshun.jp/articles/-/272296
「チャンピオンを目指すチーム」「チャンピオンのように戦おう」「チャンピオンは諦めない」。カーター選手は俺たちは諦めない強さを持っており、チャンピオンになる資格があるのだと個々のポジティブなアイデンティティに語り掛けているのがわかるでしょう。このあたりのワードセンスと三段論法は日本人にはなかなか出てこないのではないでしょうか。良くて「優勝するのは俺たちだ!」くらいでしょう。
ここまで言える人がなかなかいないということは、言い回しを学べば際立つという事でもあります。部下をやる気にさせたり、上司から権限を与えてもらう時はもちろん、「君とは幸せになりたいと思っている、オレの気持ちはわかっているだろ」といった愛の言葉までレトリック(巧みな言い回し)を学ぶ事で与えられる他者への影響力は計り知れません。
歴史の名演説は名レトリックの宝庫ですから、歴史の名演説はどのような表現で人の心を動かしたかを知る事でうまい言い回しをストックする事ができます。カーター選手の声出しも素晴らしいですが、歴史の演説は人の心を動かす名フレーズの宝庫です。今回の論文の流れはレトリックのストックがあって完成します。
具体的なレトリックのフレーズを確保するなら、演説の分析や解説も含まれている「あの演説はなぜ人を動かしたのか」を読んでみてください。この本であなたのカリスマ性を完成させましょう。
あなたも変な方に導かれてないか注意しよう
ブラック企業の詭弁は許さない!
社会では、ブラック企業のやりがい搾取がこれらのフレームワークに似ている事があると私は感じています。私たちはこのような口車に注意し、うまく防御しなければいけません。確実にブロックしていきましょう。
ブラック企業を見極める事もできる
たとえば、「困っているお客様のため」と献身を推奨するものです。
「休憩時間を削ってお客様の困りごとをいち早く解決する事は素晴らしいのだ!」
「カスタマーファーストで駆け回る献身は我が社の誇りだ!」
と言われれば、これは困ってる人を助けるという道徳的な理由がある分一見否定することが難しいものです。責任感が強く、優しい傾向にある人ではなおさらでしょう。つまり、献身的なヒーローという英雄的動機が発生しやすいのです。
その結果、カリスマ型リーダーが「カスタマーファーストで自ら献身せよ」と言えばその価値観に沿った行動になりやすく、その英雄的動機によって集団的利益に繋がりやすくなります。
「そんなことを言うのなら、困っている客がどうなってもいいのか!お金を払ってるのにちゃんとサービスが受けられていないんだぞ!」という反論がありそうですが、まさにこれこそが道徳的なものと結びつけるのが強力なポイントです。
落ち着いて考えれば「お客様のために」労働者の本来必要ない献身が必要な状況ならば「人員などのリソースを増やし労働環境を整える」という運営戦略の見直しが必要なはずです。
しかしアイデンティティと同化していると価値観の問題になりますからヒーローになれる献身以外の選択肢を否定しやすくなります。解決策は他にもたくさんあり、お客さんも労働者も双方が幸福になる選択肢もあるはずです。
話のすり替えに惑わされないために
こういった詭弁や論点のすり替え対策について詳しく知りたい方は、「反論の技術」などで対策を行いましょう。訓練されていないとおかしい、きれいごとに過ぎないとわかっていても勢いに流されたり、言い返せずまるめこまれてしまいます。おかしい事にはおかしいと考える事、そして反論する事はきわめて重要になります。
もちろん私の言ったような正論ばかりで社会が回っているわけではありません。上には上の事情もあるから人員は増やせないのでしょうし、仕事には少なからず献身が必要な場面もあります。何よりそのおかげで助かる人がいるのは事実ですから献身的な人そのものを否定するつもりはありません。
しかし、カリスマリーダーの力は強力だからこそ、この巻き込み力は気を付けないとブラック企業から抜け出せなくなる事にもなりかねません。仮にカリスマリーダーに影響され、リーダーにとって都合の良い献身的ヒーロー像と自分のアイデンティティが一体化させられてしまった場合、知識がないと抜け出す事はかなり難しいでしょう。
その場合は、「自分の今のアイデンティティは誰かに作られたものではないか?」と落ち着いた時間を作って立ち止まり、変な巻き込み方をされていないか考えてみる必要があるでしょう。一度立ち止まって考える時間を取ってください。
カリスマリーダーシップは正しく・道徳的な理想に導く人が必要なのです。リーダーが変な巻き込み方をしそうであればあなたが知識を使っていち早く気づき、みんなにアラートを出してください。この記事を共有する事もいいかもしれません。労働環境が是正されなければ労基に相談したり、労働組合とかを入れていいんです。
特に「うちは組合がないよ!」という人は外部労組(ユニオン)という選択肢もあるということを入れ知恵しておきますので、ぜひ調べてみてください。外部労組が来ると会社はあなたにすっげえ嫌な顔をするかもしれませんが、これは正当な労働者の権利ですからメリットデメリットを天秤にかけて権利は使っていいのです。カリスマなんちゃらだろうが、外部の人に「ウチは英雄的動機でやってますから」は通用しません。外部に相談しましょう。
今はこのような労働者の権利に関する知識が広まってきていますし、誰でもスマホで証拠を記録できる時代です。ブラック企業が現代で通用しなくなっているのは、このような理由からです。残念でした。
リーダーは導く先が大切です。皆が幸せになれるように、かつ成果を出せるようにあなたの正義感と知識で、周囲の人を導いてあげてください。
人を巻き込むためのスピーチパフォーマンスを効率的に高めるためには、一人でできる話し方練習法も参考にしてね!
引用・参考文献
1)Shamir, Boas, Robert J. House, and Michael B. Arthur. “The motivational effects of charismatic leadership: A self-concept based theory.” Organization science 4.4 (1993): 577-594.