この記事一行まとめ
・スピーチが上手く、拍手喝采を受けやすい話し方には7つ型があり、その型を使って何度も言いたいことを繰り返すことが重要
スピーチが上手い人はトクをします。
特に社会に出てからはプレゼンやスピーチを引き受けただけなのに、口が達者なだけで有能っぽく見えて目をかけられるという事も珍しくはありません。もちろん挨拶を頼まれて堂々と話せるだけでスマートでカッコよく見えます。
ですから私はこう思ったわけです。
もしかして話す内容より、どうしゃべるかの方が大事じゃね?
社会では人前で話すスキルがないせいで過小評価されている人が多いと感じます。すごくもったいない話ですが、逆に言えばあなたの影響力をスキルで増すことができるとも言えます。
今回はしゃべるのが上手い人‥政治家などからそのコツを伝授してもらいましょう。来るべき時に、あなたの能力を知らしめる準備をしっかりしておきましょう!
スピーチが上手い人に共通する「7つの話術」を使いこなせ!
拍手喝采の2/3は「7つのスタイル」で占められていた
John Heritageらの論文では、演説で喝采を浴びるような話し方には特徴があり、演説を分析した結果、7つのスタイルで話した時が喝采を浴びた時の2/3以上を占めていた1)とのこと。その7道具は以下の通り。
- 対照法:二つの対照的なものを比べる事で言いたいことを際立たせる
- 3部構成のリスト:「人民の、人民による、人民のための政治」など
- 謎解き:自分の伝えたいメッセージが答えとなる質問を投げかける
- 前フリ:「その理由をお話ししましょう」など話す内容の前振りをする
- 組み合わせ:記載されている方法を組み合わせるというのが良く使われていた
- ポジション取り:明確に自分の立場はこうだ、と相手を批判/賞賛(特に批判)して表明する
- 追っかけ:もう一度同じ内容について触れ、強調する
以上のパターンの組み合わせという点にスピーチが上手い人の秘密がありそうです。
スキルを組み合わせて、言いたいことを何度も繰り返せ!
この論文でも触れられていますが、拍手喝采を浴びるカリスマ性のある喋り方というのは何度も繰り返すというものが形を変えて使われている印象です。「対照法」「3部構成のリスト」「ポジション取り」「追っかけ」などは結果的に主張について何度も触れる事になりますからね。
確かにプレゼンへたくそな人は言いたい事が多すぎて「結局何が言いたいの?」みたいな空気になります。スピーチやプレゼンではポイントを絞って、その一点突破のためにこれら7つのツールを採用して言いたいことを繰り返す為に使うのはアリでしょう。
たとえば、あればジョージWブッシュの演説で以下のようなフレーズがあります。
「我が国を脅かし、混乱と撤退に追い込むことを目的としたものです。しかし彼らの目的は失敗しました。なぜなら、我が国は、もっともっと強いからです。」
あの演説はなぜ人を動かしたのか 川上 徹也
このフレーズには「謎解き・前フリ」が使われているのがわかるでしょうか。これにより、最後の「我が国は相手より強い」というメッセージが強調されています。
名演説のレトリックをストックせよ!
このように名演説には様々な「型」が使われており、言い回しもうまいです。7つの型に加えてレトリック(巧い言い回し)がうまくなるとメリットは数知れません。士気高揚だけではなく説得力にも影響しますから、会議など意見を言う時にサッと言えるだけであなたの発言の影響力は格段に上がります。
そのためには7つの型だけではなく、レトリックの表現をストックしておくことが有効です。たとえば、先ほどのブッシュの演説であればスピーチの後半はこう述べられています。
「今日はあらゆる分野のアメリカ国民が結束して、正義と平和の為に決意をした日です」
あの演説はなぜ人を動かしたのか 川上 徹也2)
ブッシュ大統領は攻撃を受けたことに対して、自分たちの正義・平和のために団結してたたかおうという明確なポジション取りをしているのがわかると思います。
例文としてこれをストックしておきましょう。ここでは困難な状況として、あなたがチームのために会社の上層部に対立し物申さないといけないという厄介な状況に出くわしたとします。その時にあなたはみんなに語り掛けます。
「みんなの言いたいことはわかった。今日は私たちがより結束を強くし、私たちの正義の為に決意をした日だ」と自分の覚悟と共にチームのみんなに語り掛ければ、「ボスの覚悟が伝わってきた、俺たちのためにそこまでやってくれるんだ!そうだ、それならオレもこのチームの為に頑張ろう!」と胸を熱くしてくれるでしょう。なんだったら上層部物申さなくても、適当な所で「どうしてもダメだった」というだけでもみんな納得してくれそうですよね。これがレトリックの強力さです。
このように、演説やレトリックを学んでおくと攻めだけではなく守りにも使えるのです。このようなレトリックのストックが欲しい人は「あの演説はなぜ人を動かしたのか」などの名演説の解説本を読んでおくのが良いでしょう。
お祝いスピーチの例
例として部下の就任祝いの締めにスピーチをするのであれば、
「私は今回の彼の就任が適任だと信じて疑いません(ポジション取り)。それはなぜか?(前フリ)確かに彼は若いし欠点もある。しかしそれ以上に変革と、正義感と、求心力に満ちているからです(三部構成)。この就任には歓迎の声ばかりではない事も知っています。しかし私たちが停滞を選ぶのか、それとも誰も見たことのないイノベーションを選ぶのか(対照法)。これは聞くまでもないでしょう。やはり私は彼の革新性こそが適任だと確信しています。(追っかけ)頑張ってください」
このように一貫して「彼の就任は適任だ!」という点を様々な手法を組み合わせて繰り返し述べる事で惹きつけるスピーチになるでしょう。
プレゼンにも応用できる
即興でも使えるように練習しておいた方がいいね
プレゼンでの使用例
先ほどの7つのテクニックをさらに具体的に使う方法を考えてみましょう。例えばあなたが新しい製品開発のために予算や開発期間をもらうために重役にプレゼンしなければならないとしましょう。
「私達の持っている技術や製品というのは最新で・安価で・操作性がいいものばかりです(3部構成のリスト)。しかし、問題もあります(前振り)。それはスマートフォンの機能が私たちの製品と競合し始めているという事実です。今までの製品では問題は解決しないのです(追っかけ)。 ‥確かに今までと同じ開発方法であれば安定した売れ行きは期待できるでしょう、しかしその安定は既に業界全体として衰退してきており、私はこの製品ではもっと抜本的な変化が必要だと言いたいのです(ポジション取り)。 このまま安定し他社の切り開いた道に追随するか、それとも先駆者となり他社を置き去りにするか(対照法)。私たちの会社は今までどうしてきたでしょうか(謎かけ)。私はより意欲的な製品開発の為にリソースを割くことをぜひ検討していただきたいと考えています。具体的な追加機能としては~」
とまあこの謎の製品が一体何なのかを考えないまま例を挙げましたが、「組み合わせ」の使用方法としてはこのようになります。長々と書いていますが、このプレゼンは「この開発にリソースちょうだい(はーと)」としか言っていないのです。
話し方や練習方法も大事
話す内容は決まりましたか?これだけでも効果的だとは思いますが、人間は文章だけでものごとを判断するわけではありません。
たとえば、小声で「えっと、私達の持っている技術や商品は‥その‥」とか話しても「おいおい大丈夫か?」と思われてしまうでしょう。逆に、堂々とした振る舞いで喋られたら「彼、なかなか見どころあるね」と思われます。話す内容は一緒なのですが、これが人間です。
ですから、その為に効果的な振る舞いをも練習しておきましょう。一人でできる話し方練習法あたりを取り入れ、説得力のある声で話す練習までしておけば準備は万端でしょう。こんな準備する人めったにいないでしょうし。
即興でできる論理力を高めるために
7つの喋り方を即興で組み立てられるようになると営業などではかなり強いのですが、一瞬で話を組み立てつつ、相手につっこまれないような話術には論理力が要求されます。その為の方法には3つあります。
まず、欲張らずに一つだけに決めて使ってみる事です。この話の前フリで何を話したかわかりますか?「そのための方法は3つあります」と述べていますよね。これも立派な3部構成のリストです。このように一つやると決めたら、話す時に「何でもいいから3つにわけて説明してみよう!」と意識するわけです。しかしこれだけだと不自然になりがちなのも事実です。
次に簡易で実践的な方法としては、先ほど述べたように名演説のレトリックを脳内フォルダにストックしておく事が挙げられます。名演説にはたいてい7つの型が含まれていますし、巧みな言い回しからすべてを瞬発力だけで組み立てるというのは慣れるまでは難しく、初心者にはこちらをおすすめします。名演説のレトリック、すごいですから。
最後に、論理力そのものを高めるという方法もあります。おすすめ本5選に論理を強くする・論理で負けない本を紹介していますので、そちらも参考にしてみてください。こればかりは手っ取り早い方法はありません。
思いつきで書いた一体何かわからない謎の製品ゴリ押しプレゼンでさえ、7つのツールを使って文章をお化粧すると説得力も出て同意も得やすくなるよねーという話でした。身に着けておくと「なんかすげえこと言ってる気がする!」と意見を通しやすくなるしアピールの道具になりますよ。
引用・参考文献
1)Heritage, John, and David Greatbatch. “Generating applause: A study of rhetoric and response at party political conferences.” American journal of sociology 92.1 (1986): 110-157.
2)川上, 徹也. あの演説はなぜ人を動かしたのか. 日本, PHP研究所, 2009.