この記事まとめ
・人は姿勢からも感情や楽観性を認識するという研究があるが、常に背筋を伸ばせば良いというわけではない。敬語等と同様に状況や相手に合わせて姿勢を使い分けることができる人だけが「印象の良い姿勢が良い人」となる。
姿勢がいい人って目立ちますし、魅力的に見えますよね。
しかし、なぜ一部の人だけがこのような雰囲気を出せるのでしょうか?スタイルの問題?それとも単に背筋さえ伸ばせばいいのでしょうか?
座っているだけ・立っているだけで印象が良くなる秘訣がわかれば、私たちも出会いや仕事で自分の魅力を高める事ができるはずです。その方法をエビデンスを元に学んでいきましょう!
姿勢によって、自信や印象は敏感に察知される
今回参考にするのはRiskindらの論文で、姿勢と感情の関係について調べてくれたものになります。この中で「人間は姿勢からその人の感情や楽観的か悲観的か等を読み取っているぞ!」といった事が述べられています1)。詳細は以下の通り。
- まっすぐ座った人と猫背の人を比べると、猫背の人の方が落ち込んでおり無力な人だと認識した。これは顔を隠した状態で写真を見て判定してもらったため、姿勢に基づいて他者の感情を認識していると考えられる。
- 高いストレス下では、緊張した姿勢を作った人はより強いストレス反応と訴えがあったが、低ストレス下ではあまり差がなかった。
以上のことから、姿勢は自分にも他者にも影響を与えるようです。
姿勢が良いとオーラがあるように見える理由
先ほどの研究によると、姿勢は表情と同じように感情を伝えるようです。
つまり、姿勢が良いと楽観的でポジティブな感情を相手に与えることになりますから、オーラがあったり頼り甲斐があり話しかけやすいと感じるでしょう。いつも笑顔でリラックスした人には人が集まってきやすいというのは私たちも感じるところですが、表情だけではなく姿勢でも同じような効果があるということですね。
たとえば剣道や茶道をした事がある人は姿勢が良かったりしますが、そこに品位だったりオーラのようなものを感じる事があります。スポーツでも強そうな人は構えだけで「威圧感」を感じるような場面があると思いますが、これも姿勢による影響が大きいでしょう。
他にも、国際的な首脳会議などを見てもらえば、猫背で写真撮影に応じたりする事はほとんどない事がわかると思います。各国首脳はその地位にのぼりつめるまでに姿勢の重要さを経験しているでしょうし、終始スマホをいじっているような姿勢で会議に挑むようでは発言の影響力に水を差す事を肌感覚として理解しているのでしょう。
私たちも特に発言するような時は姿勢を意識した方がよさそうです。
姿勢が悪いと第一印象のダメージが大きい
逆に言えば、猫背になっているだけで「この人なんだかしめっぽい感じがするし、いまいちな感じがするわ」「陰気だわ」と思われてしまうわけです。しかも表情を抜きでこの結果が出ていますから遠目から見ただけでもこの印象が伝わってしまうわけで、場合によっては言葉や表情より姿勢の印象は重要かもしれません。
たとえば面接で姿勢が悪いと、入室した瞬間「この子、ちょっと陰気な感じ。闇属性かしら?」みたいに思われてしまうわけです。言葉を発する前から躓いている事になりますから、このような一発勝負の場では姿勢は大いに気をつけた方が良いでしょう。
特に、中学生・高校生では重たいバックパックを背負って通学しているのを見かけます。まだ発達しきっていない体格で重たいものを背負えば、自ずと体は前屈みとなり、肩を前の方に持っていく事でバランスを取ろうとします。つまり猫背になりやすいということです。
この姿勢に慣れて学習してしまうと、面接はもちろん大学生・社会人となっても猫背がデフォなる可能性があります。良い姿勢は早い段階から意識しておくと、第一印象から不利を被ることを防げるでしょう。
私も長らく猫背気味でしたが、瞑想の時に座布を導入してから背筋を伸ばすクセをつけることができました。おかげで人前で話す時もプレッシャーに負ける事はなく堂々とふるまう事ができています。姿勢が良くなるだけではなく、思考やプレッシャー耐性も高まったので個人的に瞑想はアリ。詳しくは人前で話す時の緊張対策や5年間続けた瞑想の経験とエビデンスもご覧ください。
「姿勢が良くて印象の良い人」はいつも同じ姿勢ではない
わかりました!じゃあいつも背中を伸ばした姿勢でいればいいんですね!‥という単純な話ではありません。
先ほどの首脳の話に戻ると、首脳会談では時に座った姿勢で足を組んだり大きくリラックスした姿勢になっている事が多いです。良い姿勢で目立つ人、というと直立不動でできる限り背筋を伸ばしている姿勢だと思いがちですが、そうではないのです。
印象の良い「姿勢の良い人」は姿勢を状況に応じて使い分ける
たとえば直立不動で居続けるというのは、「私はあなたに大して緊張してしまうのです」という表現になります。説教される時の姿勢を思い出してください。このような無理なアップライト(体を垂直にすること)は緊張のサインになります。怒られた時と一緒の姿勢では品位やオーラは出ないでしょう。
しかしこの緊張の姿勢が必要な場面もあります。怒られている時にリラックスして足を組んだら相手は怒るでしょうから、緊張して真摯に受け止めているんだというサインを相手に出すために直立不動の方が適切です。
ほかにも社会人だと、会社で上層部が来た時に座っていれば立ち上がって挨拶をするはずです。その時の姿勢は?肩が少し上がり、背中はピンと張っているはずです。これは緊張のサインにもなります。各国首脳のようにリラックスした姿勢を取った方がオーラは出るかもしれませんが、場に相応しくありません。
なぜなら、仕事上で自分より立場が上の人に対してあまりにもリラックスした様子を見せると、「こいつは立場をわきまえていない」と取られる可能性があるからです。これを日本語では「なめている」と言います。
あまり会わないほどの上層部でしたら、適度の緊張のサインは「私はあなたのような立場の人と突然話すと、私は思わず緊張してしまいます」「声をかけていただいて光栄です」というメッセージになりますから、相手に敬意と重要感が伝わります。印象の良い「姿勢が良い人」は単に背筋が伸びているのではなく、この使い分けが絶妙なのです。
姿勢も敬語やタメ口と同じ
日本語には敬語・謙譲語というものがあり、場や相手に応じて言葉を適切に使い分けます。いきなり社長に対して、「おっす、調子どう?おまえ相変わらず暇そうな顔してんな」と言って許されるのは孫悟空だけです。誰彼構わず同じ態度では社交性に問題が出てきます。
友人にはそのような振る舞いでもOKですが、目上の人には敬語や謙譲語を使って「お久しぶりです。社長直々に来られるとは恐縮です。ところで〜」といった喋り方をします。
言葉と同様に、姿勢による緊張も敬意を表したり、逆にリラックスする姿勢は親しい間柄であることを示すサインになります。言葉と姿勢の使い分けは一緒というわけです。
「姿勢が良い人はモテる」のは姿勢を緩めるのもうまいから
「丁寧な言葉遣い」と言われると良いイメージがありますが、常に丁寧な話し方が良いわけではありません。言葉遣いが上手い人とは、いつも敬語で丁寧な言葉遣いをする人ではないからです。
たとえば異性と仲良くなるにはいつまでも敬語でいては距離が縮まりません。ですから私たちは絶妙に距離感をかかりながら「へ〜、そうなんですか!すっごいいいねそれ!それってどこに売っているんですか?」とタメ口を少しずつ混ぜながら探り探りで距離を詰めていきます。敬語には「畏れ多い」という距離を取る効果もあるからです。ですから、常に背筋を伸ばして異性と喋るというのは、
「今日はお忙しい中お越しいただいて恐縮です。あなたと食事をご一緒できるとは光栄の極みでございます。ところで本日のプランに関しましては3点候補があります。まず1点目としましては‥」
とデートでかまされるようなものです。どうですか?この人と仲良くなれそうですか?
同様に、いつも背筋が伸びていればOKという話ではありません。そのような姿勢では敬語と同じで、「いつまでも緊張して警戒心を緩めないヤツ」「自分に心を開かないヤツ」という印象になってしまいます。状況や関係性を含めて使い分ける人、これが姿勢が良くてモテる人です。
本当に「姿勢が良くてモテる人」は、最初は相手に敬意を払い少し背筋を伸ばして応対します。そして仲良くなるに従って、徐々に姿勢をリラックスさせていきます。一方で、1人で作業をしている時は姿勢が良く集中力と知性を感じさせ、一度会話をし始めるとオープンで優しさの溢れるリラックスした姿勢になり、一方で毅然と意見を言う時や指示を出す時はまた適度に緊張感のある堂々とした姿勢とTPOに合わせてカチカチ姿勢を切り替えています。
姿勢がいいのにモテない、印象の良くない人は「常に背中を伸ばそう!」とだけ考えてしまっているかもしれません。
姿勢が良いと高ストレスにも強い
さらに、高ストレスの状況で緊張した姿勢をとらせると、リラックスした姿勢より大きいストレス反応をしたという結果も出ています。つまり姿勢が悪いとストレスに弱くなるってことですね。
これは、「なんか自分、すっげえ力入ってない?って事は今はすっげえ緊張する状況って事だな!怖っ、ストレスに備えないと!」と体の状態から勝手に脳が判断した結果であると考えられます。
つまり、心→体と思いがちですが、体→心に影響するルートもあるんじゃね?って事ですね。
感情と姿勢が一致すると増幅される
以前、落ち込んだ時にはマンガや映画が良いという記事でMIPs(気分誘導手順)について紹介しました。その中で「笑顔を作れば楽しくなる!」という顔面フィードバック仮説による手法について触れています。
ですが、このサイトの常連の皆さんはご存知の通り、笑顔を作っても気分誘導の効果はあまりなかったのです。
今回の研究を合わせて考察すると、体→心というルートには関係があるのだけれど、それには「体と心の向きが一致」することが必要になるのだと思われます。つまり、恐怖を感じている時に及び腰になれば増幅されて余計怖くなるし、少しおかしい時に笑顔を作ると増幅されて結構楽しくなる。でも、悲しいのに笑顔を作ったって正反対ですから楽しくない。このように考えられます。
今回もストレスが低い環境では姿勢の影響は少なく、高ストレスの環境だと緊張した姿勢を取るとさらに高いストレスを感じさせたという結果が出ています。姿勢(や表情など)と感情の方向が一致するとそれが増幅されやすいと言えるかもしれません。
良い姿勢だと自信があるように見えるし、実際動揺しにくい
以上のことから、プレッシャーがかかるような場面では良い姿勢を取ることに二つの利点があると言えます。
- 胸を張っていると堂々として自信と前向きさのサインになり、印象が良くなる。
- プレッシャーがかかる場面でもストレスを増幅させないで済む。
以前、独特の雰囲気を身につける科学にて「人は思った以上に動作からも感情を読まれているぞ!」という話をしましたが、姿勢だけでも「俺はこの状況でも堂々とした姿勢でいられるんだぜ?」という感情表出になります。これは相手から見ると凄みがあるように見えますし、自分の中ではストレスが増幅されないので実際に堂々と振る舞えるようになるということです。
逆だと悲惨です。自信がないからと猫背で肩をすくめるような緊張のサインを出してしまうと、ネガティブな印象を与えるだけでなくそのストレスがさらに強くなります。こうなると印象だけではなく実際にパフォーマンスが落ちてしまうかもしれません。
緊張する時にちぢこまるとさらに緊張してしまう可能性があるので、姿勢くらいは堂々としておいた方がかえって緊張しなさそうです。こう考えると人の体と心の関係ってなかなか面白いですよね。
好印象を与える姿勢の使い分けまとめ
最後に姿勢の使い方についてまとめましょう。
デフォルトは少し背筋を伸ばした姿勢。勝負所で説得力を持たせたいならばさらに胸を張り、仲良くなりたいなら少し緩めて崩した姿勢にして心を許しているサインを出しましょう。相手に重要感を持たせた方がいい場面であれば少し肩に力を入れ、背筋をピンと伸ばして緊張感を伝えてください。
姿勢が崩れたら教えてくれるガジェットを使うのもアリ
デフォルトの姿勢が猫背気味の方は使い分け以前に背筋を伸ばすクセをつける必要があります。このデフォルトの姿勢ができていないと使い分けどころではありません。
普段から瞑想のように気づく→背筋を伸ばすという方法を繰り返す方法が王道でしょうが、猫背はクセのようなものですから姿勢に気づくのはなかなか難しいのも事実です。その場合はUpright GO 2など姿勢が崩れた時に教えてくれるガジェットもありますので、このような姿勢トラッカーを導入するのも一つです。どちらでも合う方を選ぶと良いでしょう。
引用・参考文献
1)Riskind, John H., and Carolyn C. Gotay. “Physical posture: Could it have regulatory or feedback effects on motivation and emotion?.” Motivation and emotion 6 (1982): 273-298.