この記事まとめ
・ギブばかりで疲れてしまう人がバランスをとるためには、しっぺ返し戦略というゲーム理論の対処法を知っておきましょう。たかり屋などに対策ができます。
・人を助ける人は恋愛や仕事等で良いパートナーから選ばれやすいという研究があります。これは助ける事が有能さと寛大さによる信用のシグナルとなるからです。
・ギブする事のメリットを知り、自分にとっても利益のある効果的なギブを行いましょう。
助ける事に疲れてしまった、自分が損ばかりしている気がする‥そう感じる事はありませんか?
それは損得なしに頼まれたら放っておけないという優しい気持ちからでしょう。
しかしそれだけでは消耗して疲れてしまうのも事実。
ですからギブする人はギブに対する知識をつけておく必要があるのです。
今回は心理学のエビデンスからギブする人が疲れない為の方法や意外なメリット、そしてたかり屋になった時に訪れる悲劇について解説していきます。
あなたのギブ、一方通行ではありませんか?
まず、ギブする人は他の人の事だけを考えすぎです。
ギブすることで相手が幸せになる。そして自分も幸せになる。
この論理にもっていかないとやがて疲れ果ててしまうのは当然です。自分の事も考えましょう。
つまりギブすることであなたにどういうメリットがあるのかを知り、そしてあなたもトクをすると判断した上でギブをすればいいのです。あなたがやみくもに犠牲になってはいけません。
では、ギブをする人にはどんなメリットがあるのか、研究から学んでいきましょう。
ギバーがwinwinになるための心理学からのヒント
今回参考にするのは2021年G Robertsの論文で、「助ける人だと思われることにはメリットがあるのだ!」といったタイトルになります。1)詳細は以下の通り
- ギブする事には直接的なお返し(直接互恵性)の他に、ギブを見られたり噂になることによるメリット(間接互恵性)もある
- 人を助ける事は、協力的な人からパートナーとして選ばれやすくなる等周囲の人の行動を変えさせる戦略的投資とも言える
- これは人を助けること自体に「私は人を助けられる能力があるのだ!」という有能さや、「私は他の人にギブする意欲があるのだ!」という善意アピールになるためっぽい
- その結果、ギブしたり人を助けることはモテシグナルとなり、さらに信頼されやすくなる。結果として、(恋愛や仕事で)良いパートナーに選ばれやすく利益が得られる
というわけで、ギブした結果直接その人から返って来なくともウワサ話やそれを見ていた人からのメリットもかなり大きいようです。
ギブばかりする人の最強武器「うわさ話」
ギバーが持つこの「間接互恵性」という第三者のうわさ話や評判の影響は思った以上に強力です。
たとえば、実際に見ていなくともウワサであなたのギブを耳にした人たちはどう思うでしょう?
もしあなたと関わる機会があった時に「この人は信頼できる人だ、いい人だ!」という事を知っていますからものすごく協力的になるでしょう。最初から信頼度が激アゲなのです。初対面なのに!
その結果、論文にも書かれているようにあなたは良いパートナーに選ばれやすくなるのです。
つまり仕事や良い案件、恋愛パートナーに至るまで自信を持って紹介してもらいやすくなるわけですね。
ですから、お返しがなさそうだという理由だけでギブそのものをやめてしまうのはもったいない。
実はあなたがギブした事によってその場にはいなかった多くの人にまで良い評判というのは駆け巡り、時間差であなたに返ってきているということは勘定に入れておきましょう。
ギバーが陥りやすい心理的罠
ただし、ギブにはワナがあります。
世の中にはもらうだけでお返しをしない人もいますし、とことん利用してくる人もいます。
ギブをしてくれる親切な人にはあれもやれこれもやれと要求するたかり屋が寄ってくるという事も覚えておきましょう。
彼らはあなたが好意ではじめた事でも、しまいには「なんでやってないの?」と言い出したりするのですから困りものです。
なぜこのような事が起こるかというと、あなたがギブをするとウワサになってあなたの評判はよくなります。
ですがあなたのウワサを聞くのはいい人だけではありません。
たかり屋はこれを見逃さず「こいつは断らないから利用できそうだ」と目をつけてくるのです。
その結果、どこまでもたかり屋の要求に応えようとするとギブする人が疲れ果ててしまうのです。
ギブする人の最大の注意点はここです。
悪い人に都合のいいように使われて消耗してしまう事があるのです。
与えることの適度なバランスを保つ「しっぺ返し戦略」
ですからすべてに応える必要はありません。
とことん利用しようとしてくる相手やたかり屋に対しては断固たる対応を取った方が良いです。
たかり屋に対して効果的に対応するには、以前記事にしたようにゲーム理論のしっぺ返し戦略を応用するのが良いでしょう。
しっぺ返し戦略はシンプルなルールです。
「まず与えて協力する、そして相手がたかってきたらやり返す。そして相手が協力する姿勢を見せたらこちらも協力する」
これだけです。
この方法の素晴らしいところは相手に学習の機会を与えられるという点です。
シンプルなルールですがギブアンドテイクの関係を作りやすいため、ギブ一辺倒で損ばかりしている‥という人はこのルールを覚えておくと良いかもしれません。
しっぺ返し戦略や長期にわたる関係へ影響は下記の過去記事を参照してください。
ギブをやめてテイクだけにすることはおすすめしない
以上のようにギブすることは全体で見ると評判から得られる利益が大きいです。
「よし、私は普段からギブしているし人を助けている。これからもそうしよう」
という人はメリットを受け取れるので大きな問題ありません。
前述したギバーの最大の問題である「たかり屋」への対策だけは覚えておきましょう。
しかし、もう与える事はやめて自分もたかり屋になった方がトクだろうという考えはおすすめしません。
アダムグラント博士の書籍GIVE & TAKEで言うところのテイカーですね。
確かに、人からもらうだけというテイカー気質の人は短期的には利益を得ることができます。
しかしその代償は大きく、長期的に大きな成果をあげる事はできないとこの本には書かれています(この一冊は非常に良書ですのでギブアンドテイクについて悩んでいる方はぜひ手に取ってみてください)。
その理由について今回の論文から考察すると、このたかり屋の人は「人を助ける能力がない」「他の人を助ける気がない」というシグナルを多くの人に晒している事になるのです。
つまり、ただぶら下がってるだけのやつと思われる上に能力まで低いとみなされるのです。
そんな人とチームを組みたがったり、恋愛のパートナーになることを歓迎する人はほとんどいないでしょう。
結果として孤立しやすく、ギブアンドテイクできない人は大きな代償があるのです。
ギブアンドテイクができる人間は信用される
このは理性で計算しているというよりも生物としての本能的に感じているものに近いです。
たとえば、小学校の休み時間にドッヂボールやサッカーのチーム分けをしていた事を思い出してください。
リーダー格の子が1人ずつチームメンバーを取り合いチーム編成をした事があるのではないでしょうか。
その時にまず選ばれたのは誰でしょう?
当然運動神経のいい子です。
そして、みんなと仲が良い「いいヤツ」も早い段階で選ばれていたはずです。
能力が高かったり、協力的で助け合える人は信用され優先的に選ばれるのです。
このような選ばれ方は大人でも続きます。
能力があり、そして集団のために動けるような寛大で優しい人というのは「お前はウチに来い!」と色んな集団から引っ張りだこになります。
チームにとってプラスが多く、競争や厳しい環境に晒されても生き残りやすいからです。
強い上に身を挺してチームのピンチを救ってくれる、こんなキャラはゲームでも絶対パーティに入れておきたいですよね。
これがギバー、与えるタイプの人が受ける評判になります。
一方、テイカーは真逆の評価を受ける事になります。
つまりチームメイクの際に誰にも声をかけてもらえません。
ピンチに助けてくれる人がいないという事は戦略上これ以上ないマイナスになります。
仲間がいると楽しいという感情的な側面もありますが、仲間がいるというのは強力な保険に入っているようなものです。
テイカーは言ってみれば人生で常にギリギリで薄氷の上を渡っているようなものなのです。
ギブアンドテイクができる、むしろ積極的にギブをする人間だと見られておいた方がたいていの場合うまくいきます。
テイカーは人を助ける気がない上に能力まで低く見える
このように自分のことしか考えず能力のない人というのは恋愛パートナーとしてもチームの一員としても選ばれにくくなります。
どんなに能力があり、すごいヤツだったとしても寝返ったら厄介ですから信用できない人は仲間にしません。
ましてや弱い上に寝返るヤツだった場合、チームに加入させるメリットがありません。
これがテイカー、奪う人が受ける評価になります。
ギブアンドテイクができない人というのは短期的には得をしてズルいように見えるかもしれませんが、以上のように組織での評判や生存において非常に不利な状況になるということは覚えておきましょう。
相手にギブばかりさせるテイカーは長期で見ると大きな代償を支払っているのです。
ギブの心理学を活用して自分も満足する事が大切
最後にギブをする人が得られるメリットを確認して、あなたがギブを続けるためのモチベーションを高めておきましょう。
上手にギブをすればトクをするし疲れないのです。
ギブできると寛大で信用される
論文によるとギブする事によって寛大さを示し、これにより信用されやすくなる1)とあります。
先ほども言いましたように、どんなに有能でも寝返るような人をチームに入れる事は危険です。
ましてや権限を与えるなんてもってのほかでしょう。
ギバーでズッ友になる事は信用に繋がり、出世に繋がる
ですから古来より権力者の側近・右腕とされるものには忠誠心というものが求められてきました。
側近の「私は一生あなたについていきますよ!信頼してください!」という態度に対して「この人とはズッ友だから権限あげちゃう!」と権力者が信頼を返してくれるわけです。
つまり私達もチームメンバーとして受け入れてもらったり、あるいは出世するためには相手とズッ友にならないといけないのです。
そして、信頼を得てズッ友になるための王道がギブすることです。
ギブする人はどんな評価をされるか、どんな噂をされるか覚えていますか?
そう、能力が高く、信用されるという評価をされるんでしたね。
人間の直感は信頼できる人を「3つの要素」で判断しているという過去記事取り上げた研究でも有能さ・誠実さはしっかりその信頼の要素に含まれています。
ギブする人≒能力が高くて信用できる人ですから、そんな人はぜひ自分の近くに置いておきたいと思うでしょう。
自分の近くに置いておきたいと思う人にはどうしますか?
ずっといてほしいから、親切にして疲れないように気を使いますよね。
あなたは上手にギブによって、疲れるどころかあなたが疲弊しすぎない良いポジションをゲットする事ができるのです。
このように人を助けるという事は出世のための最高の自己アピールにもなってしまうのです。
出世の科学の記事で取り上げた出世要素の一つ「美徳経路」はまさにギバーの行動そのものです。
ところが野心のある人に限ってテイカー気質だったりするので、めちゃめちゃ自己アピールが下手だったりします。
上手な自己アピールについての詳細は自慢する人が嫌われる科学的な理由と上手な自慢の作法も参照してください。
ギバーはモテる
さらに、ギバーはモテます。
能力があって助けてくれる優しさがモテシグナルとなり、これがパートナーとして好ましいと受け取られるわけですね。これは当然です。
つまり気になる人に対して「オレすごいんだぜ~」「私モテて困っちゃう」とかわけのわからないアピールをするより、ギバーとしての良さを押し出していった方がモテシグナルでキュンキュンにできる可能性が高いでしょう。
先ほどの出世の話でもそうですが、自己アピールを勘違いしていて無意味どころか逆効果な事をやってしまっている人が多いです。
「オッケーオッケー、私は好きな人の前ですっげえギブしてるから大丈夫!」
と思ったあなたも今回学んだことを振り返って考えてみましょう。「間接互恵性」ってなんでしたっけ?
そう、直接お返しがあるのではなく、見ていた人やうわさ話で評判になって返ってくる事でしたね。
つまり好きな人の前だけでギブしているだけではダメです。みんなにギブをして、「あの人、マジでいい人」という評判になって初めてモテシグナルは効果を発揮します。
相手の事が好きならば助けるのは言ってみれば当然。
しかし多くの人に対してギブをするからこそ有能さと寛大さ、信頼というサインになるのです。
好きな人の前だけ出しておこう、なんていう小手先のギブだけではダメですので、無理のない範囲でモテシグナルを出していきましょう。
恋愛心理学のカテゴリーでは他にも恋愛に役立つ記事を書いていますので、芯を食った対策をできるように一緒に学んでいきましょう!
引用・参考文献
1)Roberts, Gilbert, et al. “The benefits of being seen to help others: indirect reciprocity and reputation-based partner choice.” Philosophical Transactions of the Royal Society B 376.1838 (2021): 20200290.
2)Grant, Adam M.. GIVE & TAKE: 「与える人」こそ成功する時代. 日本, 三笠書房, 2014.