この記事まとめ
・メモリーパレスは「場所法」「記憶の宮殿」とも呼ばれている。2015年の研究では食品をリストの順番を含めて覚えてもらうという課題に対し、記憶の宮殿を使うとパーフェクトに近い正解した人は倍近くになったという結果が出ている。なお、この研究ではごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由という本が使われていた。
記憶の達人になりたいと思いませんか?
そんなあなたには記憶術のメモリーパレスがおすすめです。別名記憶の宮殿や場所法と呼ばれる記憶法ですね。今回この記事を書いたきっかけは、知人からもメモリーパレスに関する相談を受けたからです。
「記憶の宮殿って知ってる?その方法を学ぶのに何十万円くらいかかるんだけれど身につければ一生モノだし、セミナーに行くか迷ってて‥」
「‥メモリーパレスの事かな」
「え?よく知ってるね。そうそう、その先生もそう言っていて‥」
は?数十万!?
確かに教え方がうまければ習得は早いでしょうし、講師独自の記憶技術もあるかもしれません。しかし数十万とは高い!高すぎる!!そもそもメモリーパレスというのは古典的な記憶術の一つで、研究論文でも検証されているものですから「秘伝のタレ」みたいな門外不出のノウハウではありません。
今回はそんな友人とあなたのために、メモリーパレスのエビデンスと研究で使われた記憶術の本について解説したいと思います!
メモリーパレス(記憶の宮殿)についての研究と本
今回参考にするのは2015年Teaching of Psychologyに掲載されたMcCabeらの論文で、「場所、場所、場所!!記憶の宮殿(=メモリーパレス)の効果実証」といったタイトルになります。1)タイトルがパワー系で既に期待が持てますよね。詳細は以下の通り。
- メモリーパレスは研究がされている割には実際に使っている人は少ない。
- 学生は「Moonwalking with Einstein(日本語版はごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由)」という本を読んで、メモリーパレスの作り方と使い方を学んでもらった
- 学生に12個の食品リスト(たまご、牛乳など)とその順番を覚えるというテストを行なった。12個中11~12個とリストの順番を含めてパーフェクトに近い正解した人は26%だけだったが、メモリーパレスを使ってもらうと50%まで向上した!
- 記憶の宮殿を使うと、リストの順番も良く思い出せるようになった
- この実験後、記憶術として学生はテストでメモリーパレスを使う傾向があった
というわけで書籍によって学んだメモリーパレスを使うことで記憶テストの結果がよくなり、さらに生徒たちはメモリーパレスのやり方を理解したため記憶が保持できる事を実感し、味をしめて使い続けるようになったということですね。
もしメモリーパレスについて学びたい方は一冊目にごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由を手に取ってみてはいかがでしょうか。
メモリーパレスのやり方と練習方法
ではそんなステキなメモリーパレスのやり方について簡単に解説していきましょう。
おすすめは自分のよく知っている場所を自分の記憶の宮殿にする事
メモリーパレスは「場所法(method of loci)」とも呼ばれており、場所とイメージを利用して記憶していくものです。よって、頭の中に手ごろな場所をイメージする必要があります。
ですが、記憶の「宮殿(パレス)」とは謳っているものの、宮殿に住んでいない限り宮殿を「場所」として使用するのはおすすめしません。むしろ慣れ親しんだ場所が良く、まずは自分の家を使うのがおすすめです。イメージさえできれば住んでいる必要はなく、私は昔住んでいた1LDKを今でも活用しています。
家具などの配置も鮮明にイメージできる場所を選んでください。というよりありありとイメージできるなら別に屋外でも構いません。
記憶したいものを配置する為に部屋の中に番号をつけていく
今回は私の昔住んでいた1LDKを例として進めていきます。記憶を配置するところに番号を振っていきましょう。あなたの家の配置や家具に置き換えて読み進めてください。
まず、10個ほど記憶を配置する場所を決めます。この配置場所はわかりやすいものが良く、電化製品や家具などでも構いません。
私の場合ですと玄関のドアを1、靴を脱ぐところを2、トイレを3、リビングへの扉を4とします。
さらにリビングに入ってすぐ目に入るテーブルを5、そこから時計回りにテレビを6、エアコンを7、電子レンジを8、冷蔵庫を9、流し台を10と番号を振り、これを覚えておきます。何度もやっていくうちに「エアコンは7だったな」と体が覚えるので最初は厳密ではなくても大丈夫です。自信がなければ見取り図に描いて整理するのが良いでしょう。
以上で覚えるものを配置する位置が決定しました。これであなたの頭の中にはいつでも使える10個の記憶を収納する頑丈なポケットができたことになります。あとはここに覚えたいものを配置するだけです。
覚えたいものを映像として置いて歩く事で記憶していく
ここからが本番です。先ほどのところに、覚えたいものを映像として配置していきます。
今回は例として、干支を覚えたいとしましょう。子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の順番ですね。
まず最初、玄関のドアには子、ネズミです。あのお金持ちの有名ネズミでもいいですし、片目の隠れたアシメヘアー妖怪の友人のネズミでも構いません。どーんと玄関のドアにネズミのイラストが描かれたのを思い浮かべましょう。
玄関のドアを開けたら靴を脱ぐところに丑、ウシです。残念ですがウシにはステーキになってもらいましょう。衛生面を心配しながら私たちは土間に置かれたステーキを踏みつけて、家の中に入ります。
すると目の前にあるのはトイレへのドア、ここには寅、トラですね。熱狂的阪神ファンが全力でトイレでメガホンを叩いている所をイメージしましょう。管理会社から苦情が入るのは確実ですね。
そんな阪神ファンを尻目にリビングへの扉へ目をやります。ここには卯、ウサギですね。かわいいのでマイメロちゃんにしましょう。扉にはなぜかマイメロちゃんが縛りつけてあります。不吉な事の始まりでなければいいのですが。
唾を飲み込んでリビングの扉をあけたあなたの目の前にはテーブルがあります。ここには辰、ドラゴンです。ここは独断でドラゴンクエストにしましょう。とりあえずロトの剣をテーブルに刺しておきます。伝説の剣が我が家にあるのは胸熱展開です。
次にリビングを見渡していきます。テレビには巳・ヘビですね。テレビを突き破ってヘビが大量に出てきたところを想像しましょう。
さらにエアコン。午、ウマの出番です。ディープインパクトに乗った武豊がエアコンの修理をしているところをイメージします。初仕事にさすがの天才武もディープインパクトも緊張を隠せません。
お次は電子レンジ。未、ヒツジですね。ヒツジがジンギスカンをレンチンしているところを想像しましょう。せめてジンギスカンが身内ではない事を祈りましょう。
もう少しです、冷蔵庫。申、サルですね。力任せに冷蔵庫を開け閉めしているサルを想像しましょう。この使用方法では延長保証は利かないかもしれませんね。
そして流し台。酉、トリです。水が張ってあり、鶏が水浴びをしているところを想像できれば10個のポケットに全部入れ終えた事になります。
思い出す時は頭の中でこの部屋の中をイメージして歩くだけです。一度明確にイメージできていれば、「阪神ファンがトイレに‥」「うーん、テレビからヘビが大量に出てくる‥」と悪夢のように思い出す事ができるというわけです。
記憶術の中でメモリーパレスがおすすめできる理由
慣れるまでは少し訓練が必要ですが、慣れてしまえばイメージもポンポン浮かぶようになりますし、あなたも研究の通りすっかり味をしめることになるでしょう。
しかし、習得までは馴れが必要です。練習のやる気を維持する為に、記憶の宮殿のメリットについて整理しておきましょう。
メモリーパレスのトレーニングはどこでもできる
メモリーパレスのトレーニングはどこでもできます。なにしろ記憶の宮殿はあなたの頭の中にあるのです。満員電車の中だろうが、お風呂だろうが、(おすすめしませんが)先生や上司に怒られている時だろうがいつでも何も持たずに行えるのです。
特に最初は場所や数字の順番など思い出したりすることに苦戦をしたり、イメージがなかなか作れない事もあるでしょう。しかし幸いなことに記憶の宮殿のトレーニングは道具もいらず、場所を選びません。
「暇だから今目の前にあるものを全部覚える練習でもしようかな」
そんなスキマ時間の使い方があなたの記憶の宮殿を育ててくれるのです。
記憶の定着が良い
先ほどの研究にもあったように記憶の保持が良い結果が出たという事がわかっています。さらに他の記憶術と重ね技を使う事もできるのです。
たとえば、間隔学習(徐々に間を空けていく復習方法)を行うと長期記憶として定着しやすいとankiの記事で書きました。
このankiと記憶の宮殿を組み合わせて応用した方法として、このankiに復習したい宮殿(例:徳川歴代将軍の宮殿を歩く)などと入力しておけば復習間隔をアルゴリズムが判断してくれるため、記憶の宮殿と間隔学習のオイシイところ取りができるというわけです。
さらに、集中力の為に瞑想やポモドーロテクニックを使った勉強法と組み合わせれば集中力の面からも盤石でしょう。
部屋などを追加すれば記憶のポケットを増やせる
実は先ほどの十二支の例は10個しかポケットがありませんでした。ですから「オイオイ戌・亥をはぶいてるんじゃねーよ」と思った方もいるかと思います。ですが、この問題も部屋を追加すれば解決ができるのです。
例えば脱衣所やお風呂を入れればあと5個くらいは楽に追加できます。洗濯機にイヌを入れて、イノシシはお風呂場で激怒させておきましょう。このように部屋を追加するだけでさらに記憶のポケットを拡張する事ができます。もっと記憶のポケットが必要になれば、イメージの中で部屋を増築してもいいのです。
さらに後から補足情報を追加することもできます。例えば干支に加えてニホンザルの寿命が20年くらいという情報を追加して覚えたいとします。20年とは、人間で言うと成人式で振袖を着たりしますね。では先ほど冷蔵庫に配置した力任せに開け閉めしているサルが、冷蔵庫を開けて日の丸(二ホン)の振袖(20歳)を取り出しているところをイメージしましょう。これで干支に加えて、サルを思い出す度に「ニホンザルの寿命は20年」という情報を追加できたことになります。
このようにただ暗記するだけではなくノートに書くように情報の繋がりを増やすことができるという応用性でも記憶の宮殿には強みがあります。
順番まで瞬時に思い出して答えられる
これが記憶の宮殿の最大のメリットでありインパクトが強い所かもしれません。研究にもありましたが、リスト化されたものの順番まで答える事ができるのです。瞬時に答える事は丸暗記では難しいでしょう。
先ほどの十二支の例なら先ほど番号を振りましたから、慣れてくると「十二支の7番目は何?」と言われても「(エアコンは7番だから)ウマです」と瞬時に出てきます。これができるとものすごく頭が良く見えます。
さらに、逆から言う事もできます。1番の玄関ではなく、10番の流し台からスタートすればいいわけで、逆から歩いて部屋から出ていけばいいだけです。これも記憶術を使っていない人には魔法に見えるかもしれません。十二支は既に言える人がほとんどでしょうが、「ヒツジは十二支の何番目?」と言われて即答できる人はほとんどいないはずです。そこまで覚えているのかと相手は驚きます。
そして即答力に驚く相手に対して、あなたは少し照れくさそうにこう付け加えるのです。「ああ‥少しだけ、記憶する事が得意なもので」と。
記憶術としての活用場面
この記憶の宮殿というのはアイデア次第で様々な場面で使う事ができます。
もちろん試験勉強
記憶術は当然試験勉強で猛威を振るいます。
特に強いのが順番を含めて覚えなければならない時。例えば徳川歴代将軍を暗記する、なんてのは記憶の宮殿の得意中の得意とするところです。
初代は家康だから「健康そうなおじいちゃん」をイメージし、二代目は秀忠ですから「秀才で忠実そうなガリベン」をフックとしてイメージ。さらに三代目は家光ですから「バブリーなネオンサインの光」を配置していきましょう。
このように配置して記憶の宮殿を歩けば「三代目将軍は?」→「トレイにネオンサイン!光!徳川家光だ!」と即答できるわけです。ただ覚えているだけではなく、順番まで即答できるあなたに皆はただならぬ知性を感じるでしょう。
仕事のスケジュールやTODOリスト
先輩上司と同行する時に、スケジュールを把握していると有能に思われます。例えば外回りに行くのだとしたら、記憶の宮殿に訪問先やタスクを頭の中に入れておきましょう。
そして「午後からどこに回るんだったかなぁ」となった時はチャンス。あなたは記憶の宮殿を歩くだけで、どこまで終わったのか、次に何をするのかがすぐにわかります。今はリビングの扉を開けたところまでタスクを消化しているとわかれば、リビングの中を見渡していけばいいのです。
「この後は○○の藤本さんの所に見積もりをお渡しして、その後は定期の顔出しで△△の斎藤さんのところに。帰りまでに後部座席に置いてある荷物を出せば終わりですが、今日先輩は2時間の時間休で早上がりでしたね。直帰も可能とのことですので、顔出しが終わったら私が近くの駅までお送りする形でいかがでしょう?」
と、メモも見ずに一気に話し切れるとただ物ならぬ雰囲気になりますし、「使えるヤツ」認定されるでしょう。有能すぎて若干怖いかもしれませんが。でも、ちょっとただならぬ雰囲気がある方がパシられたりしなくなるので色々便利だったりしますよ。
研究で使われたメモリーパレスの本はこちら
最後に、今回の研究で使われた記憶術の本はごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由というタイトルで日本語版が出ていますので、もっと本格的に記憶術について知りたい方・記憶の達人になりたい方は手に取ってみてはいかがでしょうか。
記憶術のテクニック慣れが必要ですが、論文でもこの実験後記憶術として学生はテストでメモリーパレスを使う傾向があったようですしね。
引用・参考文献
1)McCabe, Jennifer A. “Location, location, location! Demonstrating the mnemonic benefit of the method of loci.” Teaching of Psychology 42.2 (2015): 169-173.