この記事まとめ
・大人の勉強は明確な目的があったり問題を解決するために行うため、アクティブラーニングになりやすいです。この学習方法は長期的には22.9%成績が良く、集中力も保たれやすく楽しいという研究があります。さらにアクティブラーニングは独立思考やクリティカルシンキングも促されやすく、知識の使い方の訓練にもなるため生涯学習と相性が良いです。
学生の頃は勉強する事も本を読むのもイヤだったけれど、今は楽しい!
私もそう思うことがあります。しかしなぜ大人になってからの勉強は楽しいのでしょうか?そしてもっと楽しく・効率的に学ぶにはどうすればいいのでしょうか?
その理由をいつものようにエビデンスから考察し、大人の学びをブーストする方法についても解説していきたいと思います。
参加型学習は22.9%も成績が良い上に楽しい
今回参考にするのは2013年Millerらの研究で、伝統な学習と参加型学習を比較してくれた論文になります。1)ちなみに参加型学習っていうのは話を聞くだけじゃなく、自分も参加するタイプの学習でして、たとえばグループワークやロールプレイがそれにあたります。詳細は以下の通り。
- 参加型の学習は伝統的な授業形式よりも平均で短期的には8.6%、長期的では22.9%も成績が良かった
- この参加型学習は10〜15分の講義後に、その知識を活用するためのアクティブラーニングが行われた。
- 生徒たちは参加型学習に対して「楽しく思い出しやすい工夫をしてくれた、これを続けてほしい」「いい雰囲気だった」「理解を後押ししてくれる」「エキサイティングだった」といった感想を持っていた
- 一方、伝統的な授業形式では「すごい人の授業なのだろうが混乱した」「何も得られなかった」「眠い」「つまらない」という感想を持ち、授業中も注意散漫でSNSやメールをしたり寝落ちをする傾向にあった
というわけでアクティブラーニングを併用したグループは楽しく、成績まで良かったのです。
大人になってから勉強が好きになる人は元々勉学の才覚がある
私たちが学生の頃受けた授業というのは、ほとんどが一方的に先生や教授の解説を受ける伝統的な教育というものになります。これは理解度も悪いし注意も散漫になるし、おまけにアクティブラーニングを併用する授業と比べて楽しくないようです。理解度の違う多くの学生に教えるとなると仕方がないのでしょうが学生の頃の勉強が集中できず、つまらないのは仕方がないとも言えるでしょう。
目的があるとアクティブラーニングになりやすい
一方で、大人になってからの勉強というのは何か明確な目的がある事が多いです。私の場合なら「この問題を解決したい、能力を高めたい」ですとか、「これを上手く使えば自分に有利な状況を作れるぞ!」「後輩に教えてあげたら喜んでくれるかな」といった事を念頭にありますから常に目的を考えながら論文や本を読み進める事になります。
すると、ただ文章や名詞を覚えるのではなく「今までの知見とこの新しい知見の違うところはここだ」「この知識は今抱えている問題解決に使えるな」「これは現実的ではない」と具体例と結びつけたりしながら勉強します。これがまさにアクティブラーニングなのですね。
すると学ぶことの理解も長期保持も良いですし、現実で役に立てば実利もあって自信までつくわけですから大人になってからの勉強が楽しいのは当然とも言えます。このタイプの人は、元々勉強自体は好きだったのでしょうが学生の頃の学習スタイルのせいで嫌いだと思っていただけです。ですから大人になってから勉強が楽しいというよりは「あなたは元々勉強好きで才覚がある」という方が可能性が高いです。
では、そんな勉強好きなあなたが学習をさらにブーストする方法も解説していきましょう。
大人の効率的な勉強法はアクティブラーニングだ
学習をブーストといっても、アクティブラーニングを行うと単に理解が速くなるという意味ではありません。学習スタイルを超実践型の学習にブーストするのです。
独立思考やクリティカルシンキングを鍛える
もしあなたが今までの勉強に加えてアクティブラーニングを極めていく事ができれば、理解能力や長期保持が向上するだけではなく、もっと嬉しいオマケがあるかもしれません。論文では、
- アクティブラーニングによって独立した思考やクリティカルシンキングも鍛えられるんじゃない?
- というよりも、今はググったら知識も大量に出てくるんだから「どうやって使う」かが大事。それを身に着けるにはアクティブラーニングだ!1)
といった事も述べられています。
独立思考やクリティカルシンキングができると、教えてもらった話や本に載っていた事を覚えておくだけではなく、知識を吟味したり、情報を元に自分で意見を組み立てて問題解決をする事ができます。つまり情報に対して一度ブレーキをかけ、さまざまな角度からものごとを見ることができるのです。
たとえば怪しい投資話とかに惑わされてしまうのは相手の言う事や書いてあることを鵜呑みにしてしまうからです。ガリ勉はテストが得意かもしれませんが、そんなおぼっちゃんお嬢ちゃんが社会で問題解決能力がなかったりするのはこのためです。しかしクリティカルシンキングや独立思考ができる人は情報を鵜呑みにしません。
たとえば自分にとって都合の良い投資話について、以下のように考える事ができます。
「すごく魅力的でいい話だ!では、どうしてこの人は他人である自分にそんな話をしてくるのだろう?」
「保証してくれるなんて安心だ。でも、反対意見はないだろうか?たとえばプロスペクト理論※1から考えると人間は保証を過大評価する、この安心は高くついているのではないか?」
「自分は頭がいいから投資のニセ情報なんかに騙されないもんね。しかしちょっと待てよ、今そう考えた根拠ってなんだろう?もしかしてこれがダニングクルーガー効果※2じゃないか?」
※1プロスペクト理論:利益よりも損失の方が過大に感じる事。これにより損失回避が過度になる事がある
※2ダニングクルーガー効果:能力が低い人の方が自己評価を高く見積もる現象。
このように情報を使って考える事ができます。こういった能力が特に現代では求められているということですね。知識を理解し覚えるだけではなく,使いこなす。アクティブラーニングの真髄はここにあります。
今の時代は知識をどうやって応用するかが大事
情報を知りたいだけならGoogleに任せればいいわけで、間違いなく私より知識があります。ものを覚えたいなら、TOEICで語彙力を増やすならankiという記事を以前書いたように他にも効率の良い方法があるのでアクティブラーニングは必要ありません。記憶術ということであれば記憶の宮殿(メモリーパレス)も有効でしょう。
問題は私たちが得た知識をどう使うかです。あなたがこの記事を読んでいるのも私の知識の応用を読んでいるのですよね。その情報の欠点や別のものの見方ができないと日常生活で知識は生かせません。これはストリートスマートの話に近いですね。
ですから今私の記事を読んでいて「これはちょっと自分と考え方が違う」「自分の持っている他の情報と組み合わせればコイツが言っている事よりもっといい方法がある」といった意見はあってしかるべきで、私はむしろ推奨したいです。なぜならそれこそがアクティブラーニングだからです。
なお、クリティカルシンキングをどのように行えばわからないという方はクリティカルシンキング 入門篇:あなたの思考をガイドする40の原則がおすすめです。これは少し古めの本で、新しいクリティカルシンキングの本は他にもたくさん出ましたが自信を持っておすすめできるものとなると結局この本になってしまいます。クリティカルシンキングに対して学びたいならまずこれを手に取ってみてください。そして、次の項で説明するChatGPTを使った学習と組み合わせるとなお良いです。
ChatGPTを使ってレッツ・アクティブラーニング!
ではどのようにアクティブラーニングを行えばいいのでしょうか?
おすすめの方法はChatGPTを使う方法です。
論文ではアクティブラーニングの一つとしてグループワークが良いと書いてあるのですが、大人になってからグループワークなんてなかなかできるもんじゃありません。ですから、ChatGPTにグループワークをしてもらいましょう。
具体的な使用例として、以下のようなプロンプトを用意しました。良ければ参考にしてみてください。
私は○○について勉強をしています。これについて●●という事がわかっています。このことについてAさん(想像力の高いアイデアマン)、Bさん(批判的)、Cさん(中庸)がいるという設定で理解を深め知識を応用する為にグループワークを行います。私の説明に対して会話形式でブレインストーミングをしましょう。
「(勉強したい内容の説明と、自分の意見を述べる)」
このようなプロンプトを使用する事によって多様なものの見方や、自分の考えの欠点をバランスよく知りながら知識を深める事ができます。
特に利用価値が高いのは批判的なBさんの出す意見で、あなたが考えもしなかったような角度からの意見をしてくれるでしょう。彼らから出る面白い意見や納得できない部分に対して質問し、深掘りしていきましょう。他の2人は自分の理解が浅い所を言語化してくれたりもしますから、まさにアクティブラーニングのおいしい所取りをできると言えましょう。クリティカルシンキングを使って相手の意見に突っ込んだりしてみてください。
さらにメリットとして、仮想とはいえ相手に意見を述べなければいけませんから自分の考えを言語化するトレーニングにもなりますし、会議を回すスキルまで鍛えられます。特に考えを精緻に言語化するスキルというのは極めるとこれだけでご飯が食べれるほどの能力であり、逆に言語化スキルが低いと「何言ってるかわからない人」「ちゃんと筋道立てて考えられない人」と言われかねません。知識を使って社会でお金を稼ぎたい、ということであればこれほど実践的で効率の良い学習方法はないでしょう。
あなたもアクティブラーニングを行い、知識を覚えるだけではなく使いこなせる人を一緒に目指しましょう!
引用・参考文献
1)Miller, Cynthia J., Jacquee McNear, and Michael J. Metz. “A comparison of traditional and engaging lecture methods in a large, professional-level course.” Advances in physiology education 37.4 (2013): 347-355.