人間の直感は信頼できる人を「3つの要素」で判断している

信頼できそうな男性 心理学

 「この人はなんとなく信用できない‥」

 そんな風に感じる事はありませんか?うまく説明できないのだけれど、本当にこの直感に従っていいのか。そもそも、自分の直感は何を感じ取っているのか。

 ここはひとつ、私たちは何を元に信頼できる人かを判断しているかを研究から勉強しておきましょう。

 そうすれば直感を信じていい時・ダメな時がわかります。それに信用されやすい特徴とは何か知っておけばあなたが信頼してもらいやすくもなります。

信用できると感じる時の「直感」を分解して考えてみる

信用される人は「能力・慈悲・誠実さ」の3点セットを持っているという研究

デキるだけじゃ信頼されないって事ね

 Academy of management reviewに掲載されたMayerらの論文によると、信頼される人が持つ特徴は3つの要素に集約されるとされています。1)

  • Ability(能力)
  • Benevolence(慈悲)
  • Integrity(誠実さ)

 頭文字を拾うとABIとなりますが、このABI3つ全部合わせ持つと直感的に信用できる人になります。

一つでも欠けるとなんとなく信用できない人と感じる

 つまり、有能+優しさ+マジメ。これが全部揃うと確かに「コイツはめっちゃ信頼できる!言う事間違い無いだろ任せちゃう!」と思いたくもなります。これが揃うと信頼できる人のサインとなるのは経験としても理解ができます。

 たとえば、「コイツマジメなんだけどよくミスするし、忘れるし、とぼけるし。仕事も遅いんだよなぁ」では、やはり信頼される事は難しいと思います。

 しかし「コイツすげえ有能なんだけど何考えてるかわからないし他の人を見下したりする所あるんだよな」でも、やはり信頼されません。

このように一つでも欠けてしまうと、「信頼に値するかというと、ちょっと怪しい」という惜しい人になります。私たちは直感的にこの3つが揃っているかで信頼性を判断しているのです

具体例としてギブする人は信頼される

具体的に言えば、利他的に他人のために行動するような人は信用されます。なぜなら、他人を助けるという行動は能力があり、かつ他の人を助ける慈悲と誠実さの顕れだからです。

人を助ける≒能力があるというロジックに「?」と思った方もいるかもしれませんが、人を助けるスキルや知識がなければ当然ですが助ける事はできません。他の人を助ける能力があり、助けるリソース(時間や体力、お金)があり、かつ他の人のために分け与える意志がある。これを有能と言わずになんと言いましょうか。

そう、人助けやギブする事は本人が自覚していなくても最高の自己アピールになってしまうのです。このギブの効果と研究については詳しくは研究で学ぶギブアンドテイクのトリセツという記事で解説していますのでそちらも参照してください。

プロや手練れ相手に直感は通用しないと思った方がいい

 ロバートDチャルディーニの「影響力の武器」でも似たような事が言われてまして、たとえば最初に自分の損になるような提案をあえてしてくれるような専門家は信頼されやすいという例が出ています。2)

 そのような人は確かに「フェアだし(誠実)、わざわざ自分が損してでも(慈悲)、その知識を私たちに使ってくれる(能力)、信用できる人物なんだ!」と思うでしょう。

 さきほどのABIが揃っていますから、そのような人物はやはり信用され影響力を発揮できるようになるのです

 このように、専門家というのは信頼を得るプロです。どうすれば相手が信用してくれるかを考え抜いて、自分の商品を買ったり信用してもらえるように綿密に作戦を立てて練習してきます。

 つまりプロ相手に直感だけを頼りに信頼性を判断するのはあぶないと言えるでしょう。

 補足になりますが、このように自分の望ましい方向に影響力を与える方法というのは結構研究されていまして、この影響力の武器では6つの原理がまとめられています。

 これらの原理を組み合わせれば、私たちは思わずYesと言いやすくなりますし、逆にYesと言ってもらう事もできます

 なんだか自分に発言権が与えられてない気がする、仕事で正しい事を言っているのに話を聞いてもらえないという人こそ、この原則を知っておく事が重要です。

 人を動かしていくには、現実では完璧な理屈よりも、影響力の方が効果的な場面は多いのです。先ほどの専門家のように影響力を高めたいなら、社会心理学者ロバートチャルディーニの著書「影響力の武器」は読んでおいた方が良いでしょう。

利害関係のある相手は直感だけで信用しない

 先ほど述べたように、プロに準備をされるともはや信用に対する直感は機能しないどころか、直感を利用されてしまいます。プロや専門家相手には直感は通じないと思った方が良いでしょう。

 対策として、後述する信用できる人のサインも参考にしつつ、相手との利害関係などの状況も含めて考える必要があります。もし相手と利害関係があるなら、直感は一度横に置いて落ち着いて考えるべきです。

 プロが顧客の利益ではなく自分の利益に沿って行動するだろうという事については「ヤバい経済学」でも述べられています。

 プロだから顧客のメリットだけを行動して行動してくれるだろうというのはこちらにとっては望ましい考えですが、プロは資本主義の中でお金を稼ぐためにプロフェッショナルとしての行動が会社から要求されています。

 このことをわかりやすくするために、あなたに一つ質問をしましょう。あなたは私の為に人生を棒に振ってくれますか?

 この答えはもちろんNOだと思います。あなたが底抜けにいい人の可能性もありますが、それでもこの質問にはNOと答えた方がいいです。同じように、ほとんどのプロも自分の生活や人生の方が大事だと思います。

 このように、利害関係次第でプロというのはいくらでも自分の利益の為に行動します。スティーヴンレヴィットは行動はインセンティブ次第だと述べており、私達よりプロが持っている情報が多いほど、プロは自分の為にその情報を使うとされています。3)

 こういった経済学的な知識をつけておくと、相手を不用意に信用してしまう事を防げるだけではなく、「アンフェアだ!」といらだつ事も少なくなります。

 資本主義を生き抜く上で、きれいごとだけではない現実的な知識をつけておくことは自分の財産を守るためにも変にイライラしないためにも、そしてあなたの周りの大事な人を守るためにも重要です。プロがどう行動しているのか、世の裏側を探検したい人は「ヤバい経済学」を手に取ってみてください。

相手と信頼関係を作るなら直感を利用した方がいい

誰しも一つくらいは弱い所があるはずよ!

 もちろん信用というのは実際にはその3つだけではなく、この研究によると評価者がどれだけ人を信用する傾向にあるか、どれだけ信じるというリスクを取れるのかなども含まれます。

 ですが人を推し量るものさしとして、私たちは有能・優しさ・誠実の3つを直感的に使っているという事になります。もしあなたが相手と信頼関係を作りたいと考えたなら、直感に訴えるべきです。まずはこの3つの中で、自分はどれが十分アピールできていないかを考えてみてください

 信用を貯金していくには知識があったりスキルがある事を見せることはもちろん、周囲への気配りマジメさを見せていく必要があります。

 アピールしなさいと言うわけではなく、いくら真面目に働いていてもその採点項目が相手の目に入らなければ信頼されにくいと理解しておく事は重要です。その際には、自分には能力・慈悲・誠実さ、3つのうちどれかが抜けていないか?と点検する癖をつけておくだけでも信頼されやすくなるでしょう。

信用できる人でも3点セットが揃ってないと直感ではじかれる

 この3点のどれかが欠けていると直感的に信頼されにくいです。たとえば、能力はあるし真面目だけれどなかなか評価されないという人はよくいます。「仕事できる」と言われるようなタイプですが、これはとてももったいない事です。

 もしこの人にABIで不足している「優しさ」を追加できればそれだけで印象や信頼感が変わるでしょう。仕事の合間に「そっちの進捗はどう?」「疲れすぎてない?一息入れよう」とか周りに声かけするだけでいいのです。

 すると一気に「あの人は仕事もできるし気配りもできる素敵な人だな」という印象になりますし、上司からの印象も「周囲にも目配りできる余裕もあるし、信用に足る奴だ」となるでしょう。

 また、謝れない人は「誠実さ」がなく、ミスから学んでいくという「能力」もないと感じられます。ですから、謝れない人は信用されにくいというのは感覚的にも理論的にも正しいと言えるでしょう。もしそうなら、謝れないのを直すために脳の特性を理解する必要があるかもしれません。

 全てが足りないと言う人はあまりいませんが、多くの場合一つ二つ欠けてて「惜しい」のです。あなたにほんのひとつまみ足りない要素を追加して、あなたのもつ本来の信頼性を感じてもらえるようにしましょう。信用してもらえると意見も通りやすくなりますし、仕事も人間関係もやりやすくなりますよ。

信頼できる人を見抜くには直感に加えて「罪悪感」を見る

 以上のように、ABIの特徴を持っていたとしても相手が信頼感を装ってくることがあります。「信頼できるように見える」のと、「本当に信頼できる」は重なる部分もありますが、現実では違うのです。

 確かに真面目で有能で気配りできる人は信用できる傾向にあるかもしれません。ですが、有能で真面目だからこそ、いざという時は真面目にうらぎってくる可能性もあるわけです。

 この問題に関しては、直感だけではなく罪悪感を感じるタイプか見ると見抜ける確率が高まります。詳しくは信頼の科学という記事で詳しく書いていますので参照してください。

 こちらの方が信用できる人かを見抜くには妥当性が高そうですから、「信用できるように見える」と「信用できる」の違いを頭に入れておくと良いでしょう。

引用・参考文献

1)Mayer, Roger C., James H. Davis, and F. David Schoorman. “An integrative model of organizational trust.” Academy of management review 20.3 (1995): 709-734.
2)Cialdini, Robert B. 影響力の武器 : なぜ、人は動かされるのか. 第三版, 東京, 誠信書房, 2014, ISBN9784414304220.
3)レヴィット, スティーヴン・D., and ダブナー, スティーヴン・J.. ヤバい経済学: 悪ガキ教授が世の裏側を探検する. 日本, 東洋経済新報社, 2006.

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