人の恨みは恐ろしい:心理学で学ぶ恨みと嫌悪の違いとリスク

憎悪の表情を浮かべる男性 心理学

人の恨みは恐ろしく、軽く考えてはいけません。

何気ない軽蔑や嫉妬が相手の心に火をつけ、予想外の報復を招く可能性があります。

それどころか全くあなたのせいではなくても人の恨みを買い、大きな代償を支払うことになることすらあるのです。

本記事では、恨みによる報復の心理的なメカニズムと、マキャベリの名著「君主論」でも語られる恨みを買う危険性について解説し、他人の恨みを避けるための具体的な方法について心理学のエビデンスを元に解説していきます!

相手を軽視して恨みを買う事は非常に危険!という心理学研究

 今回参考にするのは2014年DeBonoらの研究で、「軽蔑していると思われたらやり返されるぞ!」といった内容の論文になります。1)詳細は以下の通り。

  • 「嫌われているから拒絶する(好意の欠如)」と「尊敬されていないから拒絶する(敬意の欠如)」は受け取り手として全然違うっぽいぞ!
  • 無礼だったり、相手を軽視し配慮しない方が相手に「やり返してやる!」という気持ちが高かった
  • 好意の欠如と敬意の欠如はやり返されるかどうかに独立した影響を与えているっぽい。だから「嫌いだけど尊敬している」「好きだけどなめられる」は起こりうる
  • 特にナルシスト相手だと敬意の欠如は「やり返してやる!」という気持ちが高くなる可能性が高いので注意しよう!

といった結果になっています。嫌われてもいいけど、相手を軽蔑したり軽視することは恨みを買い、やり返される可能性がかなり大きそうです。

嫌悪と軽蔑:恨みに対する心理学的な違い

以上の結果から、嫌われても構わないけれど相手を軽視するような態度はNGと言えるでしょう。
逆をいえば、嫌われることくらいは、ある程度受け入れた方がいいとも言えます。
嫌われることを恐れていては何も言えませんし、何もできないからです。

カエサルの名言でも助言者は嫌われているが、恨まれてはいない

人間社会で生きていく以上、意見が合わなかったり自己主張を貫かなければならない場面はあります。

しかし、自己主張をして意見が違うからと言って嫌われるとは限りません。
以前反対意見を言って嫌われる人と、信頼される人の大きな違いについての記事を書きましたが、違う意見でも率直に・真剣に話すことは「この人は正直で信頼に値する!」というサインでもあるのです。

確かにイエスマンが信用できるかと言えばそうではないはずです
たとえば「ここはちゃんとやってくださいよ」「この点を見落としているんじゃないですか?」と耳の痛い事を言う人は確かに嫌われやすいです。
しかしそんな正直に忠告をする人から「今出た◯◯さんの意見はとてもいいですよね、その見方はなかったです」と言われればその発言の信ぴょう性が増し、ちょっと嬉しく感じるのではないでしょうか。
嫌われても信用はされるということですね。

そしてあなたが社会経験を積み先輩になり、上司になれば相手の至らぬ点を指摘しなければならない場面は必ず出てくるわけです。
これは上に立つ者や能力のある者の宿命です。
するとおそらくあなたは嫌われます

この注意や指摘に対して相手が心の底から

「指摘していただいてありがとうございます!」
「こうやってボスが注意してくれるのはオレならできると思っているからだ。次は頑張るぞ!」

と思ってもらえると思いますか?
いいえ、多くの場合は「うるさいな」と思われるのが普通です。
正しいことを言ったとしても好かれるとは限らず、残念ながら多くの場合けむたい顔をされるでしょう。

カエサルも「私は助言を愛す、しかし助言者を憎む」という言葉を残しているくらいですから、やはり自分の考えを述べると嫌われる事は避けて通れないのです。

嫌われていても、恨まれるどころか尊敬されることがある

しかし、今回の研究から考えるとこのような嫌われ方はそこまで問題が大きくないと言えます。

このように指摘をしてくれる上司や先輩がいたとして「あの人は口うるさいな」と思われたとしても、同時に「でもあの人仕事もできるし、言うことに一理あるんだよな」と尊敬を得ることはあり得ます。
このような嫌われ方はOKだと言えるでしょう。

逆に、言うべきことを言えないと嫌われなくとも「いい人なんだけど頼りないんだよね」という印象を持たれかねません。
嫌われるのを選ぶか、尊敬されない方を選ぶのか。人それぞれですが、立場があるのなら必要なことは伝えて嫌われても尊敬された方が良いのではないでしょうか。

恨みのリスクを減らすためにできること

ただし、指摘や注意をする際に相手の人格にまで立ち入った説教になってしまうと話は全く別です。

「なんでそこまで言われなきゃいけないんだ」と嫌われるだけではなく敬意を払われないことに対してうらみを買う可能性が高く、「いつかやってやろう」といった怒りの引き金になりかねません。

論文ではこのメカニズムとして「補償メカニズム」というものを挙げています。
自分に対する敬意に欠ける態度を取られた場合、失われた尊敬を取り戻し、自らの存在価値の証明のため「やりかえしてやろう」という動機になるというものです。1)

つまり「この人は嫌いだ」というのと「この人は自分を軽視している」という理由は似ているようで全く違うということです。
よって、その結果補償メカニズムが引き起こされる敬意を払わない・相手を軽視するような言動は非常にうらみを買いやすくやりかえされるためなんとしてでも避けるべきと言えるでしょう。

自己主張や指摘で「ここを改善してください」「提出期限は守らないといけません、改善案を考えましょう」といったものはOKです。
しかし相手の人格すら否定するような「だからダメなんだ」「恥ずかしくないの?」といった言動はアウト。「いつかこいつの寝首をかいてやろう」と企てられることになります。
ハラスメントにならないような話し方はあなたが恨みを買ってひどい目に遭うリスクも下げてくれるというわけです。

人気がある人はねたみで恨まれるパターンもある

さらに2017年Fujimotoらの高校生を対象にした調査では、人気があったり地位がある人は嫌われやすかっという結果が出ています。その理由としては地位や人気の競争相手として対象にされやすいという事が挙げられています。2)

そう、そもそも人気があるだけ、ステータスがあるだけで嫌われるのです。
上品な言葉でいえばねたみであり嫉妬です。

これはこちらに非がないだけに理不尽に感じるかもしれませんが、人気者やステータスがあり人目を惹いてしまう以上嫌われやすくなるのは仕方がないとも言えます。
じゃあ私は人気者じゃなくていいです、ステータスもなかったということで‥と言ったところでナシにはできませんから、嫌われやすい事実は受け入れるしかありません

しかしただ耐えろというわけではなく、嫉妬を受けにくくする対策を知っておくことは非常に重要です。

詳しくは過去記事の【嫉妬の科学】嫉妬されたら勝ちな理由と妬み対策を徹底解説を参照していただければと思います
人気者や実績をあげ続ける人というのは、嫉妬を買わないためにこのような処世術を身につけています。というよりも彼らはそうせざるを得ないのです。
さもないと、足を引っ張られたり自分に害をなす行動に出られる事がありますからね。
彼らは自分の能力やステータスが恨みを買う事を知っているのです。

たとえば、人気者や能力がある人は自分は評価されすぎていると感じたらすぐにリスクヘッジをします。
「いや、これは◯◯が手伝ってくれたからなんだよ」「実は今回の案は◯◯のアイデアなんだけどさ、素晴らしい才覚だよね」と周囲を持ち上げて絶妙なバランス感覚を保ちます

そう、自分だけがステータスを獲得するから問題なのであって、(言葉だけだとしても)全員で上がれば問題ないのです。
結果的に立場がある人からは「あいつは能力があるのに謙虚で見所がある」と評価され、同僚や部下からは「チームプレイに篤い頼れるやつ」とますます評価される事になります。

結局出る杭は打たれるのですが、「出る時に他の杭も引っ張っておけば打たれない」のです。

「君主論」に見る憎悪の恐ろしさとリスク

「嫌われても仕方ない!オレの言う事聞きやがれ!」というリーダー論に、ニッコロマキャベリの君主論があります。

君主論を大胆に要約すると、かなりパワー系のリーダー論です。簡単に言えば「君主たるもの、目的のために恐れられる事は全然オッケーだよ♪」といった内容です。

ですが、そんなハードロックな思想のマキャベリくんをもってしても「軽蔑と憎悪は避けろ3)と言っています。
嫌われたり恐れられるのは全然オッケーなマキャベリくんも、軽蔑と憎悪はマジでやべーからダメだと。
どうしたんだいマキャベリくん?あれだけグリグリのリーダー論振りかざしてたのに急にビビっちゃったわけ?

ですがマキャベリくんがビビッてイモを引いたわけではなく、憎悪がマジヤベェだけです。

今回の研究を含めて君主論を考察すると、この憎悪を避けろというのは人の心理を読み解いたマキャベリの慧眼を示していると言えます。
なぜなら憎悪は相手への敬意の欠如や軽視と密接に関係している言葉だからです。
恐れられる事はOKのマキャベリくんも相手への敬意の取り扱いには非常に気を遣っていた事が伺えます。
民衆の憎悪は恨みを誘発し、いつか足元をすくわれることを理解していたからです。これは心理学的にも正解だと言えるでしょう。

私たちも立場を得たとしても、権威に任せて相手に敬意を払わない場合強烈なしっぺ返しを喰らう事になるでしょう。

相手に敬意を示す重要性とリスク

君主論のこの教えを守らないとどうなるかを現代の状況で考えてみましょう。

たとえば、相手に敬意を払わない典型例としてはハラスメントが挙げられます。
そして恨みを買う事によってやりかえされることは、ハラスメントを録音されていて足元をすくわれる上司などが挙げられるでしょう。

ハラスメントは論外として、他者を軽視する態度をとるくらいですからまさかそんな録音をされているとは夢にも思っていなかったのでしょう。
しかし相手は1人の人間であり、尊厳もプライドもあるという事実を無視して相手に敬意を払わなかった代償は大きく、見事に「やりかえされた」という好例です。
君主論をそのまま現代に応用するのは問題もあるでしょうが、憎悪は避けるべきです

もし指導の必要があったとしても相手への敬意は忘れてはいけないのです。
その当然の事を知っていればハラスメントなど起きませんし、「この上司は口うるさいけれど、確かに言うことはもっともだ」と助言や指導に対して嫌われながらも尊敬は得られたはずです。
社会で相手をみくびって恨みを買うと、しっかり自分に跳ね返ってくるのです。

このように敬意を欠くというのは非常にリスクの高い行動なのです。

恨みを避け人間関係の平和のための実践的なアドバイス

今までの話を聞いて「オイオイ、昭和じゃねえんだから今どきハラスメントなんざやらんだろ」という人がほとんどでしょう。

しかし自分の自尊心を満たすためなどのためにマウントを取る行為も同様に周り回って自分に跳ね返ってくるため避けるべき行為です。
マウンティングは相手を下げて自分を高めようとする行動ですからまさに相手を軽視し配慮していない行動です。

しかも悪いことに、マウンティングによって得た自信や自尊心はあくまで一時的なものであって、自分の自尊心が満たされたとしてもすぐに戻ってしまいます。
よって人はマウンティングを繰り返してしまうわけです。
マウンティングをする人は、周囲に恨みの種をばら撒き続けながら自分の空腹を満たし続ける事になります。

するとどうなるか?
多くの人に補償メカニズムが発動し、失われた敬意を取り戻し自分の価値を証明するためにスキを見せた瞬間やり返される事になります。

さらにそれが同一グループ内で繰り返しマウンティングをしていたとしたらどうでしょう?
やがてその人が無礼を働いているという情報が共有されて巨大なチームになり、恨みが集積されとんでもない「お釣り」をもらうことになります。
その結果非常にまずいことになる事は想像に難くありません。
職場にいられなくなって転職を繰り返してしまうタイプの人はこのパターンを繰り返している事があり注意が必要です。

この手の人はそもそも自己アピールがうまくありません逆効果と言って良いです。
このようなマズいパターンを避けて正しい自己アピールをする方法については自慢する人が嫌われる科学的な理由と上手な自慢の作法の過去記事も参照してください。

まとめ:人の恨みを避けるための心得

よって、嫌われる事自体はただの好き嫌いですからそこまで大きな問題ではありません

たとえば私はシュークリームが好きですが、シュークリームが嫌いな人もいるでしょう。
しかし双方別に大した理由なんてありません。
「なんとなく好き」「なんとなく嫌い」「甘いのが好き」「甘いのは嫌い」その程度であって、「何があってもシュークリームだけは許せねえ」なんて人はまずいないでしょう。

同じように私のこともすごく好きだと言ってくれる人もいますが、逆によくわからないけれど気に入らないと言われる事もあります。
このようによくわからない事はよくわからないので実害がなければ気にしなくて良いです。
どうせ大した理由ではありません。

ただし、私が敬意を欠いていたり、無礼をしてしまったという理由で恨まれている場合は謝罪し改善します。
それは失礼な態度をとった私が悪いという事はもちろんですが、そのままにすると何かやり返される恐れあるからです。

あなた自身のリスクヘッジのために敬意を欠いた振る舞いはするべきではなく、もししてしまった場合は直ちに「あなたは他の人と同様に尊重されるべき人間だ」「私が敬意を欠いた行動をしてしまった事は間違いだった」といった旨を伝えておいた方が良いでしょう。

この点を忘れてしまった場合、やり返されるだけではなくあなた自身の敬意が損なわれてしまう恐れがあるので注意しておきましょう。

引用・参考文献

1)DeBono, Amber, and Mark Muraven. “Rejection perceptions: Feeling disrespected leads to greater aggression than feeling disliked.” Journal of Experimental Social Psychology 55 (2014): 43-52.
2)Fujimoto, Kayo, Tom AB Snijders, and Thomas W. Valente. “Popularity breeds contempt: The evolution of reputational dislike relations and friendships in high school.” Social networks 48 (2017): 100-109.
3)Il Principe, Niccolò Machiavelli.(1532)

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