【勇敢の科学】嫌な事から逃げない人の特徴と秘訣とは?

勇者 心理学

 誰しも苦手な事からは逃げたいし、向き合うのはとてもこわいです。

 ですが、逃げ腰にならない人もいます。さぞ恐れ知らずのメンタルおばけなのだろうと思って聞いてみると、その人は意外なことに「いや、こわいしやりたくないよ」と私と同じことを思っていたのです。

 どうして彼らは勇敢に立ち向かえるのでしょうか。そんな逃げない人の特徴を知ることができれば、私たちも嫌な事にも立ち向かう力を得られるはずです。いつものように研究から学んでいきましょう。

勇敢という特徴は立ち向かうたびに広がっていくという研究

試練が人を強くするというのは本当だったのね!

 2023年Kodzagaらの論文では、蜘蛛と高いところが苦手な人に対して蜘蛛に暴露させるという事を行ってもらいました。結果は以下の通り。1)

  • 蜘蛛に暴露する事を行った翌日、高いところへのこわさも克服した。
  • 主観的なこわさと実際の行動にはギャップがある。逃げる事をやめる事で感情をうまくコントロールできるよう成長した可能性がある

 なんと、苦手をひとつ克服する事によって他の苦手も勝手に克服されたというのです。この研究によると「こわいけどできる」という状態になり、苦手の克服→チャレンジができる→他の苦手も克服する→チャレンジする→さらに踏み出せるように‥といった正のループが作られます。

 つまり、一歩目を踏み出す勇気を出すと、チャレンジやこわさを乗り越える勇敢さがさらに得られます。逃げない人はますます勇敢になって、より大きな困難も乗り越えていくのです。

勇敢な人は「こわくても踏み出せる」事を知っている

 苦手やこわいと感じているものから逃げるから尚更こわいのであって、実際の行動と主観的なこわさなどの状態はあまり相関がなく初期ではその影響が大きいかもね?とこの論文では考察されています。

 つまり、勇敢に踏み出せている人もこわいのです。しかし、乗り越えられる人はこわくても踏み出せるようになっているということです。冒頭で挙げたように、勇敢に見える人でも「いや、こわいしやりたくないよ」というのは謙遜ではなく、まさに本人が感じていることであろうと言えるわけですね。

 これは私の経験としても頷ける話で、私は元々人前で話すことが大の苦手で緊張するし本当にイヤでした。しかし何度もイヤイヤ話すはめになり、最終的には段々どうでも良くなり、喋ればいいんでしょ喋れば。という態度に変化していきました。頭より体が先に一歩踏み出すことを覚えた、みたいな感じです。こうしてこわさや苦手意識というのは克服されていきます。

逆に、逃げ癖は負のループの完成型

 しかし、ここが落とし穴なのですが逃げるとその時はすぐに安心できますすぐに安心できる、これは脳にとってめちゃめちゃ嬉しい事です。

 めちゃめちゃ嬉しい事は覚えるのが早い、人間の脳はそんなお調子者です。その逃げた安心感はバッチリ学習され、次も逃げるよう学習が進みます

 それが繰り返されると、逃げないととんでもないことになる!」と想像の中でこわさが増幅されるので、やがて立ち向かう事すらしなくなってしまうのです。この逃げる事とこわさの増幅を自分の中で繰り返していくと、「逃げ癖」というものが完成します。

 逃げ癖は現実のこわいものから逃げているのではなく、自分の想像の中のこわい物」から逃げているのです。それは、逃げる前のこわさよりも遥かに手強いモンスターになっています。逃げれば逃げるほどです。

 ただし、その手強いモンスターはあくまで自分の想像上のものでしかないので、正体をあばくためにやる事はひとつ。本当にそんなにこわいものなのか立ち向かい、実際に確認する事です。

 この想像上のこわさというのはブレーメンの音楽隊みたいなものです。ブレーメンの音楽隊で人間がおばけだと思ったのはロバ+イヌ+猫+ニワトリが重なったものでした。おばけも確認すればかわいい動物たちでしかなかったりします。

 同じように、逃げ癖の負のループを断ち切るために実際にこわい経験に身をさらしてみると先ほどのように「自分が過剰反応しているだけじゃん」という経験ができますし、想像の中でこわさをエスカレートさせる事もなくなります。すると、「確かにこわい。でもそれだけだ、これくらいならいける」と本来のこわさの程度に落ち着きます。

 メリットがあるとわかれば、小さな一歩目を踏み出しやすくなります。しかし、逃げ癖というものは厄介で、どうしても「今回はいいか」「次は頑張ろう」「無理することないさ」不安やこわさのせいでその一歩を踏み出す事自体が難しいものです。そもそも一歩目が踏み出せない。

 そんな方はACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)の技法に取り組むのが良いでしょう。

本当に逃げ癖を直して人生を変えたいならACTに取り組む

 ACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)とは、第三世代の認知行動療法と呼ばれていまして、私たちが逃げ癖に立ち向かう時や失敗してへこんだ時に使っても十分役立つ技法です。

 ACTでは先ほど述べたこわさや不安などは回避せずに受け入れた方が良いという事を受容(アクセプタンス)と表現しています。受容すると、不安やこわい事に対しても「まあ、こういうものはこわいもんだ、仕方ないよな」とある意味諦めて自分にとって意味のある事に集中する、といったイメージです。

 言葉にすると簡単そうですし、「そりゃそうだろ」と拍子抜けしたかもしれません。しかし、先ほども述べたようにわかってできれば苦労はない考え方でもあります。できないから不安で困っているのです。

 それに対して、ACTは考え方のプログラム自体をアップデートしていくような技法で、2020年のGlosterらのメタ分析(質の高い研究方法)でも不安などに対してポジティブな結果が出ています。2)

 アクセプタンスを身に着けて自分にとって価値のある行動ができれば、「何もしないから負けないけど絶対に勝てない、結局ジリ貧の人生」から「負ける事もあるけどそれ以上に勝つ」というスタイルになります。どう考えてもその方が幸せになれるのは自明でしょう。サッカーだって守ってばかりじゃ勝てませんからね。

 人生だって一緒です。フラれるのが怖いからと行動しなければ、たいていは一生独りです。フラれるかもしれないけど、その苦みも人生だし、チャンスに挑んでいれば当たりも出るよねという人生、どちらがいいですかという話です。自分の為に、いい事も悪い事も含めて全部取る。これを勇敢と言います。本気で不安を飼いならして人生を変えていきたいと思うのなら、ACTに取り組むのが良いでしょう。

 このACTについてしっかり学びたいのなら、ラス・ハリス著のよくわかるACTが良書です。良書ですが、臨床的すぎて読むのがしんどいかもしれません。これはある程度土台のある人向け、ACTをやる人ではなく、「ACTを教える側」の文献になります。

 ACTを自分で行いたい人は武藤教授の「ACT 不安・ストレスとうまくやる メンタルエクササイズ」が良書です。難しいACTを一般向けにやさしい書き方をされており、自分でACTができるよう工夫がされていますので、専門家でなければこちらの方が実用的でしょう。踏み出していきたい方は取り組んでみてください。

逃げ癖への対策方法

 こわいものや苦手にチャレンジしたり一歩踏み込んでみると、その出来事だけではなく他の苦手意識を感じている事に対しても立ち向かえるようになります

 ということは、ひとつ楽な方に逃げると他の苦手を克服するチャンスも失うということです。人生で新しい事に出会うたびに、どんどん苦手が増えていく事になります。

 一方で少しずつ困難に踏み出していけば、苦手なものがあったとしてもそれまでの他の困難に立ち向かえるようになるのでどんどん勇敢になっていくとも言えます。

 ドラクエのレベル上げみたいなもので、不安から逃げないたびにレベルが上がって他のモンスターに対しても強くなるのです。こうしてどんな強力なモンスターも、ラスボスでさえ倒せるようになっていきます。

「怖くても大丈夫」の繰り返しで人生がうまくいく

 仮に苦手や不安に立ち向かったけれど、うまくいかなかったり失敗したとしましょう。しかしこの場合でも、「意外と謝ればなんとかなるんだな」「よく考えたら怒られるだけで済んだ」という失敗経験のおかげでこわさが減るというというのも珍しくありません。

 謝れない人は、自分の非を認める事を恐れているのかもしれません。ならば、脳の特性を理解して謝れないのを直す事に取り組んでみると、自分の非を認める事がむしろプラスになる事だってあると気づくことができます。自分の意見を言ったら嫌われると思っている人は、自分の意見をはっきり言う人は信頼されやすいという知識を元に、正直さや真摯さが信頼を生む事もあると気づけます。これらは知識を入れるだけではなく経験してみないとわかりません

 自分で勝手に悪いイメージを膨らませていただけで、実際に起きてみたら「あれ?それだけ?」と思えたりします。失敗しようがこわかろうが、世界はそう簡単に終わりません。逃げずに立ち向かう人だけがそれを理解しています

 逃げない人は、経験上それを知っているので「こわいけれど、立ち向かった方がマシ」ということを知っているのです。これは本能に反するようですが、実はこわさを抑えるためにとても合理的なことです。これは頭ではなく体で学ぶしかありません

 むしろ、そもそも楽な方に逃げていたと思っていたのに逃げた方がつらい道だったなんてこともありますからね。一度くらい、今まで逃げていた道を渡ってみるのも人生です。

逃げなきゃいけない状況もある

 ただし、これは踏み出してみれば「まあこんなもんか」と思えるような状況に限ります。

 蜘蛛のこわさを克服すると言っても、噛まれたらあぶない種類であれば逃げるべきです。柵のある安全な場所であれば高いところもこわがる必要はありませんが、柵もない屋上の縁を歩くのはこわがった方が良い事は明白でしょう。

 逃げなければいけない場面では逃げて良いのです。元エリート幹部自衛官のわびさんも、著書でこう述べています。

人生においては、戦うより逃げたほうがいいタイミングが必ずあります。

メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術 わび(著)3)

 心身ともに屈強な自衛官でも「ヤバい時は逃げろ!」と言っているわけで、全ツッパが賢くない選択なのは間違いないでしょう。似たような境遇の人は読むと勇気をもらえるでしょう。

 ただし、「こわいだけ」なのであればレベル上げのチャンス。立ち向かう事で将来出会うこわさも小さくなると思えば勇気も出てくるのではないでしょうか。

 苦手な仕事にチャレンジしてミスをしたところで、たいていは怒られるくらいでしょう。よく考えれば困難な仕事なのですから失敗する可能性があるのも当たり前、「まあ、謝ればいいか」と受け入れてみると、肩の力が抜けて意外とうまくいくものです。

 他の人に助けてもらいながら、楽な方に逃げる人生から脱出しましょう。それには苦手やこわいことにも立ち向かって、少しずつ「思ったより大丈夫」という経験を積んでいきましょう

引用・参考文献

1)Kodzaga, Iris, Ekrem Dere, and Armin Zlomuzica. “Generalization of beneficial exposure effects to untreated stimuli from another fear category.” Translational Psychiatry 13.1 (2023): 401.
2)Gloster, Andrew T., et al. “The empirical status of acceptance and commitment therapy: A review of meta-analyses.” Journal of contextual behavioral science 18 (2020): 181-192.
3)わび.メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術.ダイヤモンド社,第1版,2022

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