この記事のまとめ
・ウソをつく時は脳が処理しなければならない事が増えるため返答に時間がかかる。脳に負荷をかける質問をするとウソを見抜きやすい
「前フリ」とかの質問テクニックを活用しよう
あなたはウソかどうか判断するときに、何に注目しますか?
大前提として人間はウソが上手です。上手なウソがあるから社会は平和を保てているとも言えます。ということは人間ウソをつきなれていますから、上手なのは当然。一筋縄ではいきません。
では、噂でよく聞くように「腕を組んだから」とかの理由でウソをついていると判断して良いのでしょうか。‥たぶんあまりよくなさそうです。ラーメン屋の店長とかいつも腕組んでる気がしますし。
では、ウソをつく人にはどんな特徴があり、科学ではどんな回答を出してくれるのか。一緒に論文から勉強していきましょう。
ウソをつくと反応するのに一瞬「間」ができる
ウソをつくときは頭の中でやらなきゃいけない事が多いのね!
今回参考にするのは2017年Suchotzkiらのメタ分析※で、「嘘をつくには時間がかかるぜ!」というタイトルになります。1)詳細は以下の通り。
(※メタ分析:いくつもの研究を集めた研究論文で、エビデンスレベルが高いとされている)
- ウソをつくと返事までの反応時間が伸びるよ!(だいたい115msecくらい)
- それはウソをつくには脳の認知コストが増えるから。嘘がうまくいくかどうかは脳の実行機能次第っぽい
- 「ばれないように嘘をついてね!」とやる気を出させると反応時間は短くなったが、それでも反応時間は遅かった
- 感情的に動揺したりする嘘ではより反応時間が伸びるかも
事実を打ち消して嘘を言うまでには時間がかかる
簡単に言えば、「頑張っても嘘はワンテンポ遅れる、一瞬間が空く」「頭がいい奴はウソが上手い!」という事になります。
その理由としては、人間は聞かれたことに対して反射的に事実が浮かんできてしまうのだけれど、ウソをつく時は
- 頭に浮かんだ事実を打ち消して
- 動揺がばれないように自分を抑え込み
- 嘘を言う
といった事をやらなきゃいけないからです。事実を答えるにはただ頭に浮かんだこと言えばいいのですが、ウソをつくときには余計なステップが増える分脳の負荷が全然違うとのこと。これが一瞬答える前に間が空くという現象になるとのことです。なるほどね。
研究に使われた潜在連合テストを試したい人はこちら
余談になりますが、今回の論文の中で出てきた反応時間を見るテストとして信頼性が高いものに、IAT(Implicit association test;潜在連合テスト)と呼ばれるものが使われています。「自分は無意識的にこういうイメージを持っている」という信念のようなものがありまして、それを調べるテストになります。
たとえば私はモンブランが好きで高い所が苦手なのですが、IATでは「モンブラン」と「良いイメージ」に対する反応は早くなります。逆に「展望台」と「良いイメージ」を結びつける反応はワンテンポ遅くなる、つまり悪いイメージを持っているというわけですね。このテストはウソ以外にも自分の考えの偏りを知れたりします。
IATを通して、どのような結果でもそういったバイアスが現在の私たちにあると知り、そしてどうしていくとより良くできるのかを考える事が大事だと思います(ちょっと説教臭くなりましたね)。
質問で相手の脳に負荷をかけて嘘を見抜け!
大事なのは観察ではなく「お膳立て」
ウソを見抜くにはただ反応時間を見るだけでも良いのですが、この脳がウソを処理するまでの反応時間をより強く出す環境を作れば、ウソを見抜くのは容易になります。私が使っている方法としては、先ほど出したウソの3ステップのどれかを使って脳の負荷を上げるという戦略を取っています。
不意をついて脳の負荷を上げる
1の「反射的に浮かんだ事実を打ち消す」ポイントを中心に脳に負荷をかけたければ、突然聞けばいいわけです。
さっきまで仲良くヒカキンさんの話をしていたのに「そういえば昨日帰りが遅かったけどどうしたの?」といきなり聞かれたら真実を打ち消すのに時間がかかります。
逆に前もって空気がピリピリしていれば「これは疑われている、昨日の事を聞かれるな」と感じますから、あらかじめ相手は打ち消すステップを省くことができてしまいます。愛想よくニコニコしてからの奇襲は基本です。
前フリをして感情的負荷をかける
逆に相手が動揺しやすいタイプであれば、2の「自分を抑え込む、動揺させる」というところで脳に負荷をかけるのが良いです。
「私は今からあなたに昨日何をしていたか聞きます。よく考えて答えてね」とイヤな追い詰め方をする探偵のように前振りをするとプレッシャーをかける事ができるでしょう。よく考えるもなにもただ事実を答えればいいだけなのですが、なぜか答えるのにやたらと時間がかかる人がいます。なんででしょうね。
動揺すると反応時間も論理力も下がりますから、嘘を見抜く他にも、失言させる時などにも感情的負荷をかけるという方法はよく使われます。
逆に、自分がこの感情的負荷をかけられる事への対処方法は、マインドフルネス系のトレーニングで判断力と感情を安定させておくのが良いでしょう。マインドフルネストレーニングは多彩ですが、一番重要な事は続けることだと思います。私はグーグルのマインドフルネス実践法「Search inside yourself」を参考にしたものを継続していますが、この手のものはともかく続ける事が大切です。詳しくは5年間の瞑想の経験とエビデンスの記事も参考にしてください。
頭がいい人は疲れている時を狙え
さらに、うまい嘘がつけるかどうかは脳の実行機能(executive function)次第じゃね?という事も言われていますから、いわゆる頭の回転が速い人や集中力のある人はウソがうまいと言えます。
この手の人は瞬発力もあり、ウソをつかせたら最も手ごわい相手と言えるでしょう。ですが、相手も人間です。常に頭の回転を保てるかというとそうではありませんよね。疲れている時や夜などに聞き出すと相手の脳の実行機能は低下していますから、ウソの精度や反応時間もにぶります。頭がいい人は少し頭の回転がにぶったところで勝負です。
さらに、シークレットサービスの持つ嘘を見抜く能力も併せて使用すると効果的です。しかしここまで準備をして挑まれると‥ちょっと考えたくないですね。ウソを見抜くことは役にも立ちますが、グレーの方が良い事も世の中にはあります。
あまり疑いすぎるのも人間関係にヒビが入るでしょうし、罪悪感を感じる人は信頼できるというデータもありますから許す事も必要です。使い方にはくれぐれも気を付けてくださいね!
世の中には必要な嘘もあるから、見抜きすぎるのにも注意してね。
引用・参考文献
1)Suchotzki, Kristina, et al. “Lying takes time: A meta-analysis on reaction time measures of deception.” Psychological Bulletin 143.4 (2017): 428.