
あなたの心理学の記事や本にはどうして出典だの引用だのを書いてるの?
「エビデンスなんてうざい」って言う人もいるし、堅苦しくないですか?
わたしも引用とか読んだことないんですけど

OK、たくさん記事を読んでくれている人もいるからそろそろ話してもいい頃だ。
私はそれなりに根拠があるものをみんなに提供したいと思っている。これが出典を書き、エビデンスにこわだる一番の理由だ。
そもそも私は科学に携わる物書きは引用を書くべきだという教育を受けている。

どうしてですか?
ほとんどの人が引用なんて見ませんよ?

それは理由は大きく分けて3つある。
1.情報の信頼性を保つため
2.研究者へのリスペクト
3.著作権
全部大事だが、読み手としては1の情報の信頼性について知っておいてほしい。
今回は情報の信頼性とエビデンスとはなにかについて解説するぞ!

オナシャス!
「それって何かソースあるんすか?」は情報リテラシーの面では大正解

まず情報には出典(ソース)があるか確認してくれ。
出典元が明記されていないと事実かどうかも怪しくなってくる。その人の主観や意見だけが根拠(エビデンス)になるからな。
読み手が「ホントかよ?」と思った時に確認できるようにしておくことで、情報の信頼性を高められるんだ

情報の信頼性とか言われても…ウソかどうかくらい、読めばわかるんじゃないですか?
話が支離滅裂かどうかくらい私はわかりますよ

それっぽいだけで適当な情報かもしれないぞ?
職場でも「こういうことが起きました」と被害者ぶって報告してきた人が、後から事実を確認すると自分の都合のいいように歪曲して報告していたなんてことがあるだろ?事実を確認せず意見だけで鵜呑みにするのは危険なんだ。
同様に、よく「これは心理学では◯◯効果と呼ばれています(はーと)」みたいな解説があるが、本当に効果が確認されているのか?
自己啓発本から引っ張ってきた造語で、著者の思い込みが暴走しただけかもしれない。というよりよくある

ふうん。
じゃあ出典が無い場合は…

雰囲気やノリだけで書いている可能性がある。
自分の経験談やお気持ちについて書くことはもちろんいいと思うが、「だからこうすれば成功するんです」とパッションだけで結論付けるのがフェアな情報かと言われれば、私は極めて疑問だな。
これは本だって同じだ

この点、海外の書籍は引用が豊富な傾向にある。
たとえば名著影響力の武器を見ても本の最後に研究論文の分厚い引用が書いてあるはずだ。
医学の世界でも清田医師が同じような事を述べられている
英語の成書が望ましいと考えているが、それは記載内容に必ず大量のreferenceをつけていて、根拠を明確にしているからである。
個人的な意見ではあるが、国内の成書は、この部分で明らかに情報の偏りを感じる事があり、著者の考えなのか、検証された根拠が文献的に示されているのかを明確にしていないという印象を強く持っている。ー清田雅智1)

出典を明記しないのは情報の正確性を確認できないから信頼度が低下するんですね!
じゃあ出典があるかだけ見ておけばいいですね?

ゼロから一になったのだからそれだけでも大きな進歩だ。この話は以前あてにならない情報のトリセツの過去記事でも書いたな。
だが、今回はそこからもう一歩先を行くエビデンスについて解説するぞ。
きっと情報リテラシーがグッと上がるはずだ
エビデンスにも格付けがある
エビデンスピラミッドで根拠の強さを知ろう

まず、エビデンスには格付けがある。
さっき私も「エビデンスがある」なんて言ったが、正確にはエビデンスは「強弱」だ。強い根拠・弱い根拠という言い方になる。
たとえば、私の過去記事にもメタ分析だのシステマティックレビューだのとたまに書いてあるのを覚えているか?

知りません!読み飛ばしています!(もちろん覚えています!)

正直すぎてよろしい。
実は、メタ分析やシステマティックレビューというのはエビデンスのランクがかなり高い。
これらは一言で言うと論文をまとめた論文みたいなものだな。
今の研究や知見をギュッと集めて、精度の高いものだけを分析したものだ。
ざっくりとまとめると下の図のようになる。上にいる方がつよつよだ。

図1)エビデンスピラミッドを簡易的にまとめたもの
メタ分析・システマティックレビューは最強格

えっ!じゃあメタ分析って最強じゃないですか!

私も科学者なので最強という言葉は好きではないが、まあ最強だな。
さらにアンブレラレビューなんてのもあるが、そこまでは今は覚えなくていい

魔王の上にさらに大魔王がいたりするんですね。
とりあえずメタ分析とシステマティックレビューはつよつよだと覚えておきます!
まとめ
メタ分析はマジでつよつよ
RCTはつよつよ実験

メタ分析・システマティックレビューの下を見るとRCTというものがあるね。
これはrandomized controlled trial、ランダム化比較試験のことだな。
詳しくは端折るが、単体の研究デザインとしてはエビデンスレベルが最も高い。
かんたんに言うと「あらゆる要素を踏まえて、行うと効果があるか教えてくれる」ものだ
これに二重盲検といったオプションがつくとさらに強くなる。それができない実験もあるがな

うーん、わかったようなわからないような…。
あらゆる要素っていうのはなんですか?結果が出る原因って一つじゃないんですか?

一つじゃない。
この世の中、特に人間というのは非常に複雑なんだ。
だから実験してみると想像したような結果にならないことも多いし、想像とは全く違うメカニズムでその結果が出ていたりする。
だから実験でわかることは「理屈はともかくこれをやったらこうなるっぽい」という事までなんだ。
もっと言えば、私たちはよくわかんないまま実験しているとも言えるな

えっ!すっげえ適当じゃないですか!
科学者って厳密じゃないとダメじゃないですか?

心配しなくとも科学者はすっげえ厳密だ。
厳密だからこそ「私たちはまだわからんことがたくさんある」という前提で研究し、原因を絞り込むために工夫して実験する。
理屈の通った仮説は立てるが、メカニズムは後から少しずつ追いついてくるものなんだ。
そこでめっちゃ使えるのがRCTと呼ばれる手法だ。
介入効果(なにかをやった結果の効果を見る)を見る実験でRCTだと「おっ!」と思っていいぞ
まとめ
RCTマジでヤバい!
エビデンスレベルが高くてもごみを入れたらごみが出てくる

ふうん。
じゃあ、RCTっていう研究をたくさん集めたメタ分析があったら最強ですかね?

かなりセンスがいいぞ!御名答、9割はその通りだ。
残りの1割はむずいので端折るが、専門家でなければおおむねその認識で問題ない。
というより一般の方から「RCTのメタ分析」と言われたら話がわかりすぎていてちょっとビビる。
ただしgarbage in, garbage outという言葉があることは覚えておいてくれ。
ゴミを入れたらゴミが出てくると言う意味だ

ゴミみたいなRCTを集めてもゴミみたいなメタ分析になるってことですか?

その通りだ。メタ分析だろうがRCTだろうがゴミみたいなデータを集めると役に立たない。
ここを深掘りするとみんながブラウザバックしちゃうから、今はRCTのメタ分析が最強らしいくらいに考えておくといい
まとめ
RCTはつよつよ!RCTのメタ分析はもっとつよつよ!!
レビュー論文と引用のあるブログの違い

それから、実験ではない論文もある。
レビュー論文とかだな。システマティックレビューというのがもう出てきただろう?
これはレビュー論文の中でも最強格の論文だ

レビュー論文ってどういうものですか?

レビュー論文は「これについては、いまのところこんな感じだよ」と研究者がまとめてくれたものだ。
「わかっていることは◯◯で、××のことはまだよくわからない。今後はこういう課題があるね」と今までの研究を色々引用して教えてくれるような感じだな。
わからない分野の大枠を掴むのならばレビュー論文を読むといい

ふうん。
じゃあ普通のレビュー論文っていうのは、論文を引用しているあなたの本やブログと同じようなものですか?

全然違う。
まず論文は知識とリサーチ量が段違いだ。
さらに査読があるというのも大きなポイントになる。

査読?ってなんですか?

査読っていうのは専門家のチェックのことだな。
論文というのは掲載される前に専門家から「お前さ、適当なこと書いてね?」「フカシじゃね?」とゴリゴリに厳しいチェックをされるんだ。金さえ払えば掲載される適当なところもあるが。
もしこれで「あのさぁ…。キミ、これおかしいよね?」と判断されれば容赦なくreject(却下)される。
おまけにこのrejectを繰り返す賽の河原モードに突入することがあり、こうなると泣きを見ることになる。激アツだな

うわぁ…。
たしかに自分でチェックはしていても、ブログや本を査読する人はいないですもんね。
あなたは好き勝手に「オナシャス!」とか書いてますし、査読する人がいたら一発アウトでしょうね

一発アウトどころか出禁の可能性すらあるな。
それを別としても、論文の内容を日常生活に応用しようとしているからどうしても私の主観や経験がゴリゴリに入る。
特に論文の厳密さは私の記事とは最も違うポイントだということを抑えておいてくれ

じゃあ、あなたの記事よりも論文を読んだ方が正しい知識を得られるってことですか?
それって自分の存在意義を否定してません?大丈夫ですか?ついにやけっぱちになったのか?

正しい知識という意味ならその通りだ。間違いなく論文を読んだ方がいい。
だから私は必ず出典や引用元を書いている。「気になるから本当か確かめたい」という人が情報源にさかのぼれるようにな。
だが、私はやけっぱちになっているわけではない。
それはみんなの普段のお悩み解決方法について書かれた論文などないからだ。
「ラブラブだった私のあっくんが最近冷たい件と、その解決策について考察された論文」なんて私が知る限りはない

そりゃそうですよ。何言ってるんですか?

そんな具体的なものはないから、私は論文の内容をみんなの悩みを解決に応用できる形にして解説している。
研究や論文ほど正しい知識ではないがみんなの役に立ちやすい形になっているとは思うぞ

それぞれの特色の違いがあるって事ですね。
それにしても、論文って大変なんですねぇ…。

バチバチに大変だ。研究者と査読者に感謝と敬意を払おうな
まとめ
論文が世の中に出るまではバチバチに大変だぞ!!
引用や出典がないのはパクツイと一緒

さらに、心理学ではなくあらゆる科学的知見はいきなり空中から生まれてきたわけではなく過去の研究の礎があってのものなんだ。
これをアイザックニュートンは「巨人の肩の上に立つ」と表現している。
自分が賢く遠くを見る事ができるのは、巨人(先人の知恵)が足場としてあるからということだな

その言葉はgoogle scholarのトップページにも書いてますね!

だから学問において自分の意見を言う時は「私の意見はただの思い込みではなく他の人の研究を参考にしたものなんですよ!」という事をはっきりさせないといけないんだ。
たとえば、あなたが作った研究資料を横取りして私が我が物顔で発表したらどう思う?

ブチギレますね

そうだろう?
著者にリスペクトをする意味でも「この人の知恵を参考にさせてもらいました!」と言わないといけない。これがないとパクツイ野郎になる。
もちろん著作権上の問題もあるが、データと表現で異なったりしてややこしくなるからここでは端折る。
とにかく出典・引用がないのは情報信頼性という面でも、パクツイという面でもよくないと言えるだろう
まとめ
引用・出典を書かないのはパクツイ野郎と一緒!
エビデンスを取り扱う時の注意点
スポンサーバイアス

エビデンスを取り扱う時の注意点は色々あるが、まずは企業の資金提供がある場合は怪しくなる。
スポンサーバイアスというやつだな

どうして企業から資金提供があるとダメなんで…いやダメですよねどう考えても

ダメとは言わないが、ダメな可能性は高くなる。
企業に忖度しやがって、色々な工夫(意味深)をすることがある。
医療の世界ですら企業の資金提供を受けるとスポンサーに有利な結果が出やすいと2017年コクランレビューで報告されている2)

うわぁ…医療でそれやっちゃダメでしょう…

もちろんダメの一言で片づけるのは簡単なんだが、そんなことは研究者もわかっているだろう。
でも、どうしてシステマティックレビューで確認されるくらい大規模に起きているのか、ということを考えないと根本的な解決ができないからな。
だが、科学のデータとしてはダメだ。忖度されるとデータが使い物にならない

資金提供を受けている時は気をつけます!
…じゃあ、よく広告でやっているような商品の実験データとかは…?

…。

ちょっと何とか言いなさいよ

いやだ!絶対何も具体的な事は言わないぞ!私は平和に過ごしたいんだ!!

…。
まとめ
お金には気をつけよう!
状況を考えると意味のない研究

他にも、意味のない実験というものもある。
RCTで有意差が出たとしても実際は意味がないような研究もあるんだ。
この例として、飛行機から飛び降りる際にパラシュートを使うとケガ防止等に効果があるのか調べたRCTがある3)

は?

その結果、パラシュートがあってもなくてもケガ等の発生率は変わらなかったんだ

は???

よって、パラシュートは意味がない……のではなく、この実験で被験者は地上の静止した飛行機から飛び降りたんだ。高さにすると60cmだな。
だからパラシュートがあってもなくてもケガをしなかった

ふざけるのやめてもらっていいですか?
そんなふざけた実験を載せるのは適当なハゲタカジャーナル※みたいなやつでしょ?
※ハゲタカジャーナル:査読もろくにやらず、質の悪い論文でも金さえ払えばとりあえず出すというビジネスモデルのジャーナル。論文発表件数を水増しできるため一部界隈でバズったが、当然大バッシングを受けている。
査読がザルすぎるため、ポケモンのズバットを食べる事が病気の原因だという論文を掲載してしまう事故が起きたりした。

この研究が掲載されたのはBMJ(British Medical Journal)という世界五大医学雑誌の一つだ。
このBMJは毎年年末にふざけた論文を掲載するんだが、単なるおふざけとも言い切れない。
結果を出そうとするあまり意味のない研究になってはいけないよ、という警告でもあるわけだ

…つまり、特殊な状況の研究が日常に応用できるかは別問題ってことですね

そんなところだ。
今の場面に応用できるかを外的妥当性なんて言うんだが、このことには気をつけないといけないね。
たとえば印象にはジェスチャーが大事と言っても、日本と他の国では文化が違うからそのまま適用はできないかもしれない。そう疑いながら読む事だね
まとめ
その状況に応用できるか微妙な事もあるぞ!
論文を自分も読んでみたい!

自分で論文を読む時のコツはありますか?

うーん、難しいな…。
というのもスタートラインがどこかによるんだ。
統計をわかっている人とわからない人では全く話が変わってくる。
だが、私はまずアブストラクト(要約)を見て雰囲気掴むだけでもいいと思うぞ。論文に興味を持つなんてそれだけで素晴らしいことじゃないか。
わからない所はそれから少しずつ学んでいけばいい。
私は康永先生の本がわかりやすいと思うが、一般向けかと言われると…

とりあえずアブストを読んでみます。
…ところであなた何者なんですか?

決まっているでしょう。私はHarukaですよ、Haruka。
ハルカーのみなさんには私が誰かなんて些細な問題ですよ

(ハルカーってなんだ…?)

みんなの情報リテラシーを高めるのに役立ったら私も嬉しいぞ!
そして他の記事や私の本も読んで役に立ててくれたら最高に嬉しい!
まとめ
みなさんいつもありがとうございます!
引用・参考文献
1)総合診療 第29巻 第1号.株式会社 医学書院,2019
2)Lundh, Andreas, et al. “Industry sponsorship and research outcome.” Cochrane database of systematic reviews 2 (2017).
3)Yeh, Robert W., et al. “Parachute use to prevent death and major trauma when jumping from aircraft: randomized controlled trial.” bmj 363 (2018).