この記事まとめ
・座りっぱなしだと集中力を回復できず、しんどい上に勉強が進まなくなります。解決したい目的別の運動を挟みながら集中力とモチベーションを維持できるように脳をハックしていく事が重要です。また、他の記憶術と組み合わせて効率を高める方法を知っておきましょう。
最初に、働きながら資格勉強をするのはとても大変です。
まず学生よりも時間がありません。おまけに仕事は予想外に忙しくなる事がありますし、ストレスで集中できない事や、やる気が萎えてしまう事だってあります。
「集中できない!」「行き詰まっている!」と感じるのは、やる気の問題ではなく、うまい集中力の回復方法を知らないからかもしれません。
今回もエビデンスを元に、上手に集中力を保ち続ける方法・しんどい時でも勉強が続けられる方法について解説していきたいと思います!
座りっぱなしだと勉強がしんどくなる
今回参考にするのは2024年BMJ openに掲載されたTY Chuehらの論文で、長時間の座位をやめて運動する事で認知能力にどんな影響が出るのか調べてくれたものになります。1)詳細は以下の通りです。
- 座っている時間30分おきに少しきつめの運動を3分行うと、注意・抑制制御にポジティブな結果が出た。さらにその効果量は大きかった(注意d=0.89,抑制制御d=0.79)。
- 座位の合間に休憩として軽いウォーキングやサイクリングを10分→30分と徐々に伸ばして行うと、注意力・ワーキングメモリ・認知柔軟性にポジティブな結果が出た。効果量はだいたい中等度。
- 軽めの運動を30分おきに3分行ったり、中程度のきつさの運動を60分に5分行う程度では認知パフォーマンスに影響はなかった。
- カーフレイズ(踵上げの運動)を行なってもらったグループでは抑制制御に大きなマイナスの作用があった(d=-0.85)
この結果を見ると、どうやら勉強の合間に体を動かした方が集中できるようだ、でもキツイ運動はマイナスになるかもということがわかります。
座りっぱなしで動かないと集中力は保てないわけで、これでは徐々に勉強がしんどくなってくる・やる気がなくなってくるのも当然です。
運動が集中力や記憶力に影響するのはノルエピネフリンとグルコースの影響かも
論文によると、勉強をしている合間に運動を入れる事によって集中力や頭の柔軟性まで確保されるようですが、このメカニズムとしてはこの論文では以下の二つが考察されています。
- ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)によるんじゃない?
- グルコースによるんじゃない?1)
ノルエピネフリンとは覚醒や注意に影響する物質で、2019年Tullyらの論文でもノルエピネフリンは記憶の増強をもたらす重要な調整因子なのでは?と述べられており、2)記憶や集中力とは関係がありそうなのです。勉強のためにグイッと脳のアクセルを踏み込む意味でも、記憶への影響という意味でも、運動を勉強の合間に行うのは正解と言えそうです。
また、グルコースの影響という面では、血糖が安定することでエネルギー供給の安定がよい結果を与えるんじゃないかな?といった事が論文内では言われています。食後などはとりわけ運動を行うとよいかもしれませんね。
目的別の休息方法で勉強のしんどさを解決せよ!
勉強の合間に運動をするのが覚醒や集中力を維持する為に良さそうという事はわかりましたが、運動方法や継続時間によって微妙に味付けが違いますから、目的別にどんな休息方法をすればいいのかを考えてみましょう。
集中力がない・気がかりだったり余計なことを考えてしまう
どうも「集中力がない、散漫だ、余計なことを考えて手につかない」というときは、注意力と抑制制御をメインに休息を考えるとよいでしょう。論文のやり方を使うなら
- 6km/hくらいの歩行を30分おきに3分行う!
のが良いでしょう。
ええ、わかります。「6km/hくらいの歩行ってどれくらいだよ!」って当然思いますよね。
これは日本語で言えば「ややきつい」くらいの強度です。意外と自覚的な強さは結構当てになりますので、「ちょっとしんどいなー」くらいの強さの運動を3分行えばOK。歩くスペースが無い方は他の運動で代替してもOKでしょうから、「30分勉強したら、ややきつい運動を3分間」と覚えておきましょう。
ただし、あまり高強度の運動では逆に抑制制御に大きなマイナスが出たという結果も出ていますので、筋トレのような強めの運動は勉強中は避けた方が無難でしょう。
行き詰まりを感じている、問題が解けない
勉強をしていると、数学などで解法がわからなかったり、繋がりが理解できない、応用問題が解けないなどのつらさを感じる事もあります。これが続くとゲンナリしてやる気を失ってしまいますから、このような時には認知柔軟性に焦点を当てた休息方法を取ると良いでしょう。論文の運動を参考にするなら、
- 一時間に一回、軽いウォーキングやサイクリングを10分~30分と運動時間を徐々に長くしながら行う
のが良いでしょう。もっとシンプルに言えば、勉強の合間に軽くて長めの運動をするとうまいこと脳をハックできるということです。
10分から30分と聞くと、「休息時間、長すぎじゃね?」と思うかもしれません。ですが、私の経験としても問題解決を諦めてブラブラコンビニに向かっていると「そういえばこういう方法もあるな」と机の上では思いつかないようなことを閃いた経験があります。行き詰まっている時はあえて机を離れた方が効率的なこともあります。
勉強している時に長時間苦戦するような問題や単元があるのだとすれば、休憩を兼ねて外をぐるっと一回りしたり、コンビニまで散歩してくるというのは有効かもしれません。
解けない勉強に固執してしまうと、そもそも一時間に一回運動するという事を忘れてしまいがちです。それには後述するポモドーロテクニックか、最も手軽な方法としては、アップルウォッチを使用するのが解決策として挙げられます。
なぜかというと、アップルウォッチにはずっと座っていると「座ってばかりいないで一時間に一回くらい立ちなさい」と立位を促す通知をしてくれるカーチャンみたいな機能がついていますので、そのタイミングで軽い運動を10分ほど行えば良いので手軽です。アップルウォッチを持っている方はぜひ活用してみてください。
問題が解けないから運動する、というのは一見落ち着かない気持ちになるかもしれません。ですが、机にかじりついていても問題は解決していないからしんどくなっているのです。そのままジリ貧でやる気を失って苦しむよりも、頭を柔らかくする意味でも一度休憩を入れた方が生産的でしょう。解けるまでは!と頑張りたくなる気持ちはわかりますが、あまり粘りすぎてしんどくならないようにしましょう。明日以降のやる気に影響します。
食後に眠気が出たり、ぼーっとすることが多い
昼過ぎには誰しも眠くなるものですが、今回のノルエピネフリンやグルコースの仮説を元に考えるなら、勉強の前に少し運動をしましょう。強度は少し強めの運動の方がノルエピネフリンも短期間に出せるでしょうから、
- 6km/hくらいの歩行を30分おきに3分行う!
という最初の集中力解決の運動休息方法と同じで良いでしょう。ただし、勉強前に運動を行うというだけです。これまでは勉強→運動→勉強‥のループを前提に話していましたが、食後やぼーっとしがちな時は運動→勉強→運動‥のループの方が良いよ!ということですね。
食後に階段の上り下りなどを3分くらいできれば最高ではないでしょうか。
他の勉強テクニックと運動の組み合わせで効率アップ
さらに、運動による休息は他の勉強テクニックと組み合わせるのがおすすめです。むしろ組み合わせるべきです。
Ankiと組み合わせる
以前紹介した間隔学習を利用したAnkiですが、もちろんこの運動による休息と組み合わせる事ができます。シンプルにAnkiに取り組みながら休み時間に体を動かすだけでOK。
しかし、私がもっとおすすめしたいのは外でAnkiをする方法です。決められた数のAnkiを解いたら早歩きで移動、そしてまたAnkiを行うというインターバルAnkiとも言える方法です。スマホでできるAnkiのポテンシャルを引き出したもので、たとえば通勤途中に何か所かAnkiを解ける休憩ポイントを見つけておけば、毎日の通勤で効率の良い復習ができるというわけです。
外でAnkiで復習を行い、家では机で新しい知識を入れて整理をする。この使い分けが個人的にはおすすめです。TOEICの単語の復習などは相性が良く、実際に問題を解いたりするのは家で行う、といった方法で行うと非常にタイパが良いです。
ポモドーロテクニックと組み合わせる
家で行うのであればポモドーロテクニックと組み合わせるのがおすすめ、というよりもこの二つは組み合わせた方がいいです。
ポモドーロテクニックとは以前記事にしたように、「25分勉強→5分の休憩」をタイマーで繰り返すものになります。この勉強→休憩のサイクルを繰り返す事により集中力を維持しようというものです。このポモドーロテクニックは意外と使い方が難しいのですが、注意点や詳しいやり方についてはポモドーロテクニックを使った勉強法のデメリットを参照にしていただければと思います。
さて、このポモドーロテクニックですが、研究にあったように30分座位を取ったら3分の少しきつめの運動、といったサイクルを繰り返すこと自体がポモドーロテクニックに非常に近いものがありますしね。
一般的なポモドーロテクニックの休憩では水を飲む・気晴らしをするといった事でも良いのですが、3分間の運動を取り入れる事によって、より集中力とモチベーションを維持し続ける事ができるわけです。できれば残りの時間は瞑想でも行えば文句なしです。瞑想のやり方や実感した経験談については瞑想の経験とエビデンスの記事を参照してください。
メモリーパレス(記憶術)と組み合わせる
記憶術の一つである、メモリーパレス(記憶の宮殿)と軽い歩行を組み合わせる事も有効です。というよりは、そもそも実際に歩きながらメモリーパレスを行う方がうまくいきやすいです。
ちなみにメモリーパレスとは、部屋などの場所に覚えたいイメージを配置していくという古典的ですが非常に効率的な記憶の方法になります。メモリーパレスのやり方とエビデンスにつきましては、記憶の宮殿のエビデンスとトレーニング方法を参考にしていただければと思います。
これと動きを組み合わせ事ができます。ただ座って暗記をするのではなく、メモリーパレスのやり方に沿って部屋を歩きながら「本棚にはネズミ、机にはウシ」などと実際に覚えたいもののイメージを部屋に配置していくのです。今は例として干支を出しましたが、本棚まで歩いたところでネズミにかじられるような動作をするとなお記憶に残りやすいです。体を動かしながらだと覚えやすいということですね。
本を読んで理解し覚えていくのは王道で重要です。しかし、時には部屋を歩き回り、イメージをしながら体を使って覚えるのは集中力維持という意味でも記憶術を使いこなすという意味でも効率的です。
以上のようなテクニックを使い分けたり組み合わせながら、合格に向けて突き進んでいってください!うまくいく事を祈っています。Good luck!
引用・参考文献
1)Chueh, Ting-Yu, Yung-Chih Chen, and Tsung-Min Hung. “Acute effect of breaking up prolonged sitting on cognition: a systematic review.” BMJ open 12.3 (2022): e050458.
2)Tully, Keith, and Vadim Y. Bolshakov. “Emotional enhancement of memory: how norepinephrine enables synaptic plasticity.” Molecular brain 3 (2010): 1-9.