またミスしちゃった…
どうして同じことしちゃうんだろう…
仕事でミスが続いてるみたいだね?
そうなんです。ちゃんと集中しているつもりなんだけど。
同じことで叱られるとさすがにヘコむ…
一生懸命やっているのにうまくいかないと心が折れるよね。
対策はしているの?
メモを復習して、ミスをしないようにしてるんだけど、
でも本番だとどうしてもあわてちゃって…
すごくマジメに取り組んでいるみたいだね。
それでなんとかなる人もいるけど、もしかしたらそれがミスの原因かもね
?
どういう意味ですか?
じゃあ、マジメな人がミスが多い原因と対策について
心理学のエビデンスから学んでみようか!
お願いします!
真面目だけどミスが多いとはどういうこと?
結論から言うと、「真面目だけどミスが多い」のではなく
「真面目にやりすぎたからミスをする」ってこともあるんだよ
なにおぅ!?
適当にやれって言うんですか!
言い方に語弊はあるが、半分正解。
頑張りすぎるから失敗することも世の中には多いんだ。
このことについて“「完璧な集中」こそが事故を招く“と失敗の科学では述べられている。1)
この本では具体的に、以下のようなエピソードが紹介されているぞ。
パイロットは飛行機を着陸させなければならないのに、トラブルのせいで車輪が出ているか確証がなかった。
その点にこだわりすぎて決断をしないまま、燃料がなくなりついにはエンジンが停止してしまった
車輪が出ていようが胴体着陸だろうが、
どのみち着陸はしなきゃいけないよね。
パイロットは燃料が無くなる前に決断しなきゃダメでしょ
そんなことパイロットは百も承知してる。
なにしろ専門的な勉強をして、トレーニングも積んでいるからね。
プロにダメ出しするかしこいあなたは、プロがなぜ決断できなかったのか、って疑問に思わないのかな?
ちくちく言葉やめませんか?
なぜ決断できなかったのか、の答えは集中力だ。
パイロットは真面目に目の前の問題を解決しようとしすぎたからミスをしたんだ。
車輪の問題解決に集中するあまり、燃料の時間制限というもっと重要な問題が意識の外においやられてしまったんだな。
そのことについて失敗の科学ではこのように述べられている
集中力はある意味恐ろしい能力だ。ひとつのことに集中すると、ほかのことには一切気づけなくなる。
失敗の科学
真剣になると視野が狭くなってしまう、みたいな感じですかね
そうだね。
真面目に目の前の問題を解決しようとしすぎたから、
もっと重要なものや変化を見落としてしまうことがある。
この人間の注意の特性はよくスポットライトに例えられる
舞台で誰かにスポットライトを絞って当てると、
他の登場人物や背景は真っ暗になるのと一緒ですね
その通り。
当てる光をレーザーのように絞ると、周囲を照らせない。注意力も一緒だ。
だから一つのことを頑張りすぎると、他のものを意識から消してしまうことがある。
全集中するとその集中したもの以外は目に入らなくなる
それが真面目だけどミスが多い状態というわけか…
このマシュー・サイド著、失敗の科学には
人間の持つ失敗のワナや失敗についてどう考えればいいかが書いてある。
人間の本能に反する内容も多いから、興味があれば読んでみるといいぞ
まとめ
真面目に集中しすぎるとミスを招くこともある!
真面目さゆえにミスを繰り返してしまうメカニズム
基本的にマジメな人はミスしても改善していける。
しかし、状況によっては沼にハマってしまう人もいるんだ。
その理由について解説しよう。
まず、すごく真面目な人はミスをするとどう感じると思う?
すごく落ち込むと思います。
自分を責めたり、もしかしたら受け入れられないかも
そうだね。
ミスを悔めるのは素晴らしいけれど、
実は自分を責めることは成長にはあまり役に立たないんだ。
ミスして平気な顔でいろってわけですか!?
極端から極端に走るな。
そもそも人間がやることは「ミスが起きるもの」なんだ。
橋があるところには川があるのと一緒だ。
この考えを持たないと、必要以上に自分を責めたりミスから学びにくくなる
じゃあ、ミスから学ぶにはどうすればいいんですか?
それにはエラーマネジメントトレーニング(EMT)という方法がある。
かんたんにいえば失敗から学べ!ってことを強調した練習方法で、
きれいごとではなく学習効率が良いことが報告されているんだ
エラーマネジメントトレーニング(EMT)の効果について効果について、2008年Keithらのメタ分析によると以下のように述べられています。
- EMTでは、最小限の説明をされたらあとはとにかく積極的に試す。ただし、この過程で必ず多くのミスが起きる!
- 間違ったら正しいタスクのための詳細をステップバイステップで教えられる
- 取り組んでいる時に失敗が起きることは想定しておき、以下のような肯定的な声かけをする。
「失敗すればするほど、学習効果が高まる!」「失敗した?いいね!また新しいことを学べるからだ!」 - EMTは、エラーを奨励しないトレーニング方法と比較して、全体的にトレーニング成果を向上させる(Cohen’s d = 0.44)2)
…つまり?
意図的に失敗をしてもOKと考えて取り組む方が成長しやすいってことだ。
ところがどっこい、職場での教育では真逆を行うことが多い。
「失敗しないようにね」「なんでミスしたの?」とか、言われた記憶にあるだろ?
うわー、あるある!
アレっていい指導方法ではないってことですか?
そうだね。
そもそも「失敗しないでね」っていうのはお気持ちであって指導でもなんでもない。
指導の目的は失敗しない方法について学んで、応用が利くようになることだろう?
それだったらあまり目的に合った良い指導方法とは言えない
私の先輩の教え方が悪いじゃん
まとめ
ミス≒学び、と頭に叩き込む!
ミスを減らすための具体的な方法とは?
とは言っても、そんな科学的根拠を用いた指導をしてくれる先輩上司は稀だろう
そうですね。
「その指導方法、エビデンスあるんですか?」
とかうっかり言ったら大変なことになりそうです
絶対にやめた方がいいな。
だから、このルールは自分の中でのみ使う。
ミスをした時に「自分は今新しいことを発見した!」「学習プロセスの一つ!」
と心の中で唱えるわけだね。
周りの意味のない叱責は聞き流せ。どうせエビデンスないだろ?
たしかに、より成長してミスから学ぶことが大事ですもんね。
今ミスをしても、成長して百倍取り返せばいいんですから
その通り!
ミスをしたことを悔やんだってミスは無くならない。ならば学ぶしかない。
ただし、本音とタテマエを使い分けることは大切だ。
ミスをして「これは学びだ!」と言っても、開き直りに聞こえることがある。
だから自分の中ではEMTの理論を使っても、顔だけは落ち込んでおけ。
成長できるし、かわいがってもらえるぞ
うわべだけは申し訳なさそうにしておいて、
自分の中では失敗を「学習」と定義し直すわけですね
完璧だ!
このものごとを新しい枠組みでとらえなおすことを心理学では「リフレーミング」という。
そして、この失敗をリフレーミングしたネルソンマンデラの名言がある。
I never lose. Either win or learn.
(私が負けることはない。あるのは勝つか、学ぶかだ)ネルソンマンデラ
かっこいい!
私も使おう!
失敗した時に心の中でこれをつぶやくといいだろう。
そうするとEMTの理論を使いやすくなって学習効率が上がる。
このループでミスもしにくくなっていくんだ!
まとめ
あるのは成功か、学びかだ!
ミスを予防する科学的な「注意を動かすトレーニング」
真面目な人がミスを減らす方法は他にもあるぞ。
ミスの数自体を減らすための基礎トレもある。
最初に言ったように、一部に集中しすぎて失敗しまうことはマジメあるあるだ
仕事に対して気が抜けている人の方が、
かえって周りが見えていていたりしますもんね
そうだな。
とは言ってもマジメな人がうまく気を抜くといっても難しい話だ。
だから、この注意をうまく切り替えられるように練習するのも一つだ
そんなことできるんですか?
できる。
これはマインドフルネスのトレーニングに近いんだが、注意練習テクニック(ATT)というものがある。
2019年のBarthらの注意練習テクニックでは、以下のような聴覚を使った練習法が紹介されています。
- 選択的注意の練習:特定の音(時計の音など)に集中してもらう。指示に従い、次々と集中する音の対象を変えていく
- 急速な注意の切り替え練習:違う音・聞こえる場所に対して急速に注意を切り替えていく。だんだん切り替えの速度を上げていく
- 注意の分配:複数の音・聞こえる場所を同時に処理する3)
意識的に注意を向ける方向を変えていくんですね。
これの何がミスを減らすのに使えるんですか?
まず、自分のクセから抜け出せる。
私もそうだが、人間どうしても自分が気になる点だけに固執してしまうものだ。
木を見て森を見ずにならないよう、意図的に視点を切り替えることでミスを減らせる
じゃあ、私の「あわてて決められた手順を忘れてしまう」
っていうのにも使えますか?
そうだね。
その場合は「手順をミスなくやらないと!」ということに注意が向すぎている。
だから視点を引いて、仕事のどの工程でミスをしやすいのかに注意を向ければいいんだ。
具体的には、「あわてたらメモを見る。間違っていれば手順に戻る」とか
「ゆっくり周囲を見渡して、見落としがないか1秒だけ間を取る」
なんてことができると、どこであわてやすいのか・ミスが多いのかわかってくるし、苦手がわかれば対策ができる。
苦手な特定のステップに注意を向ければいいとわかればメリハリもつけやすい
その本番で視点を引いたり、周囲へ注意を向けるための練習がこのATTなんですね!
そうだね。
マジメな人は一つのことに全集中しがちだから、
もっと集中しよう!が裏目に出ることもある。
むしろ注意を動かす練習をすることが解決策になることがあるぞ
これならどこでもできますね!
通勤の時、一駅ごとに車輪の音や話し声とか
注意する対象を変えていくなんて練習によさそう!
まとめ
注意を動かす能力も大事!
まとめ:真面目さを本当の強みにするために
最後に、真面目さというのはとても良い特性だ。
その特性ゆえに、本来苦手の改善はむしろ十八番なんだ。
マジメさがない人だと周りを責めて終了だから、一生改善できない
誠実さがあるから地道な努力も得意ですしね
そうだね。誠実な人は長期で見れば右肩上がりになりやすい。
だがマジメがゆえに、一度ヘンなハマり方をすると、目の前のことにとらわれて他の解決法を試せないことがある。
結果的に完璧主義になりやすい点にも要注意だな。
そういう意味でも「成功か、学びか」というリフレーミングは効果的だ
心も軽くなりますしね。
それから、さっきの注意切り替えトレーニングは
マインドフルネス瞑想みたいですね
素晴らしい、その通りだ。
過去記事の5年間続けた瞑想の経験とエビデンスでも解説している注意のサーキットトレーニングと原理はほとんど一緒だ。
私はこの方法がうまくハマったから、練習方法として参考にしてみてもいい
この2点構えで取り組めば、今までより
いい感じに改善していけそうな気がします!
その調子だ。
マジメな人はうまくいかない時に「もっとがんばろう!」と思ってしまうことがある。
実はこれがドツボにハマることもあるから注意を動かす練習は試してみてもいいかもな
まとめ
マジメな人は違う解決方法も試してみよう!
引用・参考文献
1)マシューサイド.失敗の科学: 失敗から学習する組織、学習できない組織.ディスカヴァー・トゥエンティワン.(2016)
2)Keith, Nina, and Michael Frese. “Effectiveness of error management training: a meta-analysis.” Journal of applied psychology 93.1 (2008): 59.
3)Barth, Vincent, et al. “Shifting instead of drifting–improving attentional performance by means of the attention training technique.” Frontiers in Psychology 10 (2019): 23.