相手の注意を振り回すフェイントのコツ

目のアップ 運動の科学

これができないとフェイクを入れても簡単に意図を読まれるよ!

トッププレイヤーもマジシャンも目線のコントロールがお上手

視線を制するものは相手の注意を制する

 トップの球技プレイヤーやマジシャンってすごいですよね。どう考えても無理な状況でも相手をあっさり振り切ったり、さっきまであったコインがいつの間にか自分のポケットから出てきたりします。
 この両名の超絶技巧に共通するのは手先のテクニック(ドリブルのうまさやスライハンド)のみではなく、相手の注意をコントロールしている事も影響しています。技術は反復練習が必要ですが、この注意のコントロールならば人間の特性を利用したものですから、コツとして習得しやすいはずです。
 いつものように研究からフェイントのコツを考察してみましょう。

相手の視線によって注意の方向がコントロールされてしまう

気になるからではなく、反射的な脳の反応なのね

 今回参考にするのは1999年Driver IVらの論文で、「視線知覚が反射的な視空間配向を引き起こす」といったタイトルになります。なんだか固いタイトルなので分かりやすく言えば、「他の人が見たものに反射的に注意が向いちゃう」というものです。視線によってこちらの注意の方向づけがされてしまう、もっと言えば目の前の人の視線が「私の見たものにあなたの注意を割り振りなさい!」というトリガーになってしまうということです。1)

 この反応はフェイントでは厄介なものですが、視線につられるというのはさまざまな場面で活用できる便利なものであり、例えばElizabeth Redcayらの論文では「共同注視」として子供との親のコミュニケーションや考えている事について注意を共有する事に役立つとます。2)「私はこれについて考えているんだよ」と言うことを視線から読むわけです。これは非常に有効で、例えば自然の中でごはんがある、敵がいる、どちらも生き延びるためには重要な情報で速やかに教える必要があります。ですが視線を共有できれば、言葉がわからなくても注意を向けるだけで一定のコミュニケーションや学習ができるというわけです。人間すごい。

 私たちにはこのような便利なシステムがあるわけですが、逆を言えばダミーの視線にもつられてしまうことがある、ということですね。意識しないとあさっての方向に注意のリソースを持っていかれるのですから、やられた方としてはたまったものではありません。

フェイントでは、「視線」で相手の注意をかき回せ!

視線で注意を振り回して、相手の注意を削り取れ!

 以上の事から、人間は反射的に目の前の人の視線の方向に注意を向けてしまうという事がわかりました。それはいくらか抑制することは可能ですが、それでも意図的なもので努力が伴います。
 言ってみれば、人間がパンチをされたら目を瞑るのは目を守る防御反応として当然です。しかしボクサーがジャブの度にまばたきをしていたのではより強烈なパンチを食らう事になりますから、訓練と意図的な努力を要して目を開かねばなりません。相手にその努力を強制させるのが視線誘導です。

 視線を利用したフェイントでは、例えば相手の死角に存在しない味方を何度も見るといったものがあります。気になって確認するけど、やはり誰もいない。これから来るのか?それともコイツには見えてはいけない何かが見えているのか?と相手の注意を振り回します。

 また、シュートに行くと見せかけて切り込むといったようなものはフェイントの基本ですが、この際も目線が勝負です。下手な人はモーションだけで、目線が適当になっておりバッチリ意図を読まれたりします。Elizabeth Redcay准教授の話をちゃんと聞かないでプレーするとこうなるのです。動作だけではなく視線でフェイントを入れてください

 熟練している相手だと経験を通して注意コントロールへの抵抗を獲得していますから、視線につられにくいかもしれません。とは言っても、視線で存在しない味方を見るようなダミー刺激にも、いくらかは相手は注意が持っていかれます。一つの視線誘導で決めるのではなく、相手の注意を削り取る作業として、視線で相手の注意をコントロールすることはやはり有効と言えるでしょう。

他にも「復帰抑制」という特性も利用されているよ。下の記事も参考にしてね

引用・参考文献
1)Driver IV, Jon, et al. “Gaze perception triggers reflexive visuospatial orienting.” Visual cognition 6.5 (1999): 509-540.
2)Redcay, Elizabeth, and Rebecca Saxe. “13 Do you see what I see? The neural bases of joint attention.” Agency and joint attention 216 (2013).

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