フェイントのコツはマジックと同じ脳の特性を使う

サッカーの試合でボールをコントロールしているところ 運動の科学

ただ動きに騙されているわけじゃないのね

フェイントもマジックも相手の注意をかいくぐる

テクニシャンよね

 スポーツでフェイントという技術がありますがうまい人ってすごいですよね。わかっているのにつられてしまう。わかっているのに裏を突かれてしまう。どうも彼らのやっている事には技術以外の何かがあるとしか思えません。

 世の中にはそのような不思議な事を起こすのが得意な職業が職業がいます。マジシャンです。多くのお客さんが見ていて、絶対見破ってやろうと思っているのに気が付いたらモノが消えたり移動している。彼らはいったいどうやってこんな不思議な現象を、安定して起こせているのでしょうか。そしてその理屈を知ることができれば、私たちも相手の意識をコントールするマジシャンになれるのではないでしょうか?

「復帰抑制」という注意の特性が一時的に人を不注意にさせる

マジックは技術だけじゃなくて脳の特性をハックしているのね

 人間には「注意」と呼ばれる脳の力がありますが、これは無尽蔵にあるものではなく厳然とした限界があります。言ってみればコップの容量ようなもので、すべてに注意を払うと簡単にあふれ出てしまいます。ですから、私たちは意識的・無意識的にうまく注意を節約して使うという頭のいい事をやってのけています。賢いですね。

 この節約する特性の一つとして、復帰抑制というものがあります。一度注意を向けたところはその後刺激に対する反応が鈍くなります1)簡単に言えば、「今確認したところはわかっているから捨てて、まだ見てないところに注意全ブッパした方が情報量増えるじゃん?」というものです。賢いですね。

 例えるなら、あなたが異性とお食事会に参加したとして、まず最初に何度も会った事のある知人の良い所を改めて探すか、それとも初対面の異性がどんな人か知ろうとするか二つの戦略があるとします。あなたはどちらの戦略を選びますか?

 ‥たぶん後者ですよね。なぜかというと、初対面の人の方がわからない事が多いからです。すっげえステキな人との出会いかもしれないし、ひょっとすると地雷級の人かもしれません。
 ですから、私たちは「この人は知っているからとりあえず後回し!左の新顔から一人ずつ吟味!ハイあんた、歌はうまいの?ノリはいいのか!?」みたいな事をやっていくわけです。賢いですね

 これの短時間バージョンが復帰抑制です。

 例えばマジシャンがコインを見せます。その後コインを持ったまま手を下ろし、うまくいかないと反対の手を振っておどけます。しかし気づいた時には持っていたコインは消えてしまっています。このような事も復帰抑制で、コインから反対の手を見た瞬間、一時的にコインを持った手への注意が抑制される、つまり「注意の復帰が抑制」されるのです。見えているのだけれど、注意が手薄でちゃんと見ていないというイメージでしょうか。マジシャンは技術としてうまく動作に紛れ込ませる事でマジックを完成させていますが、多少雑でも復帰抑制さえ効いていればばれることはありません。

 失敗するパターンとしては、復帰抑制がかかるほどしっかり注意を向けてもらえてない場合です。この場合どこかに隠そうとする動作が丸見えになるのでマジックでもなんでもなくただの挙動不審なナニカになってしまいます。マジックは「私が見破ってやる!」と意気込んでちゃんと見るのがマナーです。

スポーツのフェイントも復帰抑制

フェイントの極意は相手の注意を管理する事!

 つまり、脳は賢いので「一度見たからここは理解してる、あまり見なくてもいいよ」と決めつける事で注意の容量を節約しているのです。実は脳は復帰抑制に限らず、至る所でサボっています

 サッカーのフェイントなども、視線などで左右に振って注意を向けてから、最初見た方に向かって走り出す、なども復帰抑制を利用したものと言えるでしょうし、ボクサー輪島功一の「よそ見パンチ」も視線を使って相手の注意を自分から他所へ逸らし、自分のへの注意復帰を抑制させていると言えるかもしれません。みなさんテクニシャンですね。

 このような特性を理解することで、逆に相手のフェイントを読みやすくもなります。なぜなら、脳の特性を理解していなくても経験上無意識に復帰抑制を利用すればかわせる、という事を学習している可能性が高いからです。もちろん相手によりますが、予測を立てて修正していけばゲームも有利に運べるでしょう。

スポーツやマジックでは復帰抑制以外にいくつもの注意コントロールテクニックが組み合わさっているよ。一つずつ勉強していこうね

引用・参考文献
1)Posner, Michael I., and Yoav Cohen. “Components of visual orienting.” Attention and performance X: Control of language processes 32 (1984): 531-556.

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