この記事まとめ
・主観だけの判断だと専門家でもチンパンジーのダーツ投げくらいあてにならない。予測の専門家によると、主観的な判断より基準やルールに従った判断の方がマシ!
転職するべきか、しないべきか。買うべきか買わないべきか。どちらに気持ちを伝えるべきか。
人生には難しい二択を迫られる機会があります。
その時により良い未来が待っているのはどっちなのか?今回は予測の研究者の力を借りて、科学的に良い決断方法を学んでいきましょう。
専門家でも主観だけではお粗末な判断になる
どちらを選ぶべきか、という時に専門家って正しい判断をしてくれそうですよね。そりゃ専門家ですもの、きっとスパっと明晰な判断をしてくれるはず。彼らの判断力から学べるのでは?
というわけで各分野の専門家の予測能力がどうなのか?ということについて調べた人といえばフィリップEテトロック博士が有名でしょう。1)2)彼の著書から引用すると、
- 「平均的な専門家の予測の正確さは、チンパンジーが投げるダーツとだいたい同じくらいである」
- コンピューターによる予測と主観的判断を組み合わせていく必要がある1)
というわけで専門家の予測というのは実におそまつで、なんだったら事前に決めた基準やルール通りに決めた方がマシ。できれば主観とルール両方を組み合わせろという事が述べられています。
さらに書籍のレビューをした人も専門家だからといって主観的な判断だけではダメだと述べており、「専門家は情報を持った非専門家より予測者として優れていない。(中略)占い師が存在しないという根拠があっても、”かも”はお金を払う」3)とまで言われているんですね。
どうやら主観で判断するのは分が悪そうです。では、どう選べば良い選択ができるのでしょうか?
多くの場合「常識」を選ぶのが正解
まず、多くの場合主観だけを当てするより常識的な方を選んだ方が良いと言えます。常識とは大多数の人が「そっちの方がいいよ」と言っているデータだからです。常識とは機械的判断の側面もあるのです。
たとえば「お金か友達か?」という二択であれば多くの人が「友達」と答えるでしょう。これは「友達を選んだ方が幸せになれるよ」という意見が集まった結果、常識になっているというわけです。
しかし感情に流されるのが人間。常識ではいくらお金より友情だと言われても、目の前に札束が積んであると判断が歪み、主観的に判断してしまうと後から後悔するかもしれません。人間の感情は揺らぐものだからです。よって、このような場合は感情ではなく常識に従った選択をすると、あとから後悔する可能性が低くなります。機械的に判断した方がいいというのはこのような理由からです。
ですが、もちろん価値観は人それぞれ。「それでもオレはお金がなにより大事」という価値観がはっきりしているならば、事前に決めたそのルールに従うのも後悔しない判断の助けになるでしょう。選択が正解かどうかは人それぞれな事も多いですからね。
もっと二択の精度を上げたいなら
もっといいのは、テトロック博士が言っていた「コンピューターによる予測と主観的判断を組み合わせていく」1)方法です。つまり客観的なデータと主観を組み合わせると言う事です。
基準を探せ、標準を参考にして決定しろ!
二択とはいえ「確実にこっちの方を選べばいい!」という事は極めて稀です。ほとんどの場合「どっちかわらかないけど、こっちの方がマシな可能性が高い」くらいです。
先ほど例として出した「お金か友達か」の二択にしても、「たぶんお金より友達を選んだ方が幸せになれるよ」程度ものでしかなく、友達を選べば幸せになれる事を約束はしてくれません。
となると、気になるのは「どれくらいの確率でその選択の方がいいの?」ということになります。この解答が客観的なデータと主観を組み合わせになります。
これがわかる事は思った以上にすごい能力です。もしあなたが良い予測・判断ができるなら、人生で幸せになる確率の高い選択ができるという事です。
では、幸せになる確率の高い選択を選ぶにはどうすればいいのでしょうか。その答えは、まず基準を探してください。
例:告白するべきか、しないべきか
たとえばあなたが好きな人に告白したいとしましょう。ですがあなたはなんとなくうまくいかない気がしています。その時に、
「話しかけてもあまり口数も多くないし、告白してもダメな気がする」
と判断するより、
今までの告白して8割方うまくいっているのなら
「8割くらいうまくいきそうだから告白してみよう」
と予想した方が予測は正確だし幸せになれる可能性が高いという事です。相手はただ口下手なだけかもしれませんし、照れているだけかもしれません。あるいは本当に乗り気ではない可能性ももちろんあります。ですが色々な理由を挙げていくとキリがありませんので、全部ひっくるめて「あなたの過去の成功率」を参照した方がマシということですね。
ですから、二択で迷っているならばあなたの状況や気持ちはさておき「今まではどちらに転んだ確率が高いか?」というシンプルな質問を参考するだけでも良い選択ができそうです。
あとから主観・直感で調整しろ!
これだけでも良いのですが、さらに予測能力の高い人の特徴は、「今までの成功率は8割(客観的判断)でも相手の口数が少ないから(主観)少し成功率は低いかも。成功率は7割くらいかもしれない」と二つの判断を組み合わせるという事です。
これにより、客観的判断と主観的判断が混ぜ合わされる事になり良い判断ができます。直感に関する研究でも論理と直感どっちも大事、混ぜて決断した方がいいと言われていまして、意図的に直感とデータをブレンドしていく事が重要なんですね。
直感ではなく「基準値」を頼りに決断すればトクをする
直感や経験則がダメなのではなく、主観だけに頼るのがダメなの
交渉の時にもこの予測や決断方法というものは使えます。交渉前には、まず基準になる数値を探してください。もっといえば「過去の相場をざっくりつかんでおいてから判断する」ということです。
たとえば、昇給をしてほしい時にいきなり「月給100万円くらい上げてください」とは言いませんよね。これはあなたが「去年の昇給が8000円くらいだったから、今年はできれば一万円くらいほしいなぁ。それくらいをお願いしたいなぁ」と相場という基準を理解(機械的判断)した上で交渉した方が賢いと判断しているからで、とても良い戦略です。
ただし会社には会社の都合がありますから、8000円という基準から経験則で飲んでもらえそうな要求額に上げ下げします(主観的判断)。この基準を誤ると、「あのさ、今年のお前の部門の達成率いくらか知ってる?」「っつーかお前、最近会社の車ぶつけたよな?」と空気を読めないばかりに痛いところを突かれて不利な状況に追い込まれたりします。
そこを含めて総合的に予測すると、「まあ、今年は6000円くらいで(笑)」みたいな飲んでもらえそうなギリのラインを予測する事で現実的な折り合いをつける事もできるでしょう。これが自分にとって一番いい選択肢じゃねえかな?と考える時にも先読み力というものは生かされます。先読み力は別に気配り上手や勝負事の世界だけの話ではありません。
このように普段から相場をつかんでおけば自分の経験則を押し付けてくる人の話も聞き流せますから、パイセンの自慢話にもイライラせずに済みます。
大事なのは聞き流すのであって、間違っても考えを押し付けられたときに「あぁ、テトロック博士によると主観的判断はチンパンジーのダーツ投げくらいしか当たらないらしいですよ。チンパンジー(笑)」とか言ってはいけません。心の中でほくそ笑むくらいにしておきましょう。
それに主観と機械的判断を融合させる予測と決断していけばあなたが二択で迷った時に助けになりますし、交渉力も自ずと向上していくでしょう。サンキュー、テトロック博士!
今回のテトロック博士の参考文献「超予測力 不確実な時代の先を読む10カ条」は予測能力に磨きをかけたい方は一読の価値ありです。他の人とは少し違う読みで予測を繰り返していくと、それがさらに経験となりより予測力が磨かれていきます。
私もこの本を読んでから3年ほど経ちますが、「昔はなんて適当に予測してたんだろう‥」と思います。確かに今考えてもマズい予測が多かったような‥まあそれだけ成長したって事ですよね。
引用・参考文献
1)Tetlock, Philip E. (Philip Eyrikson), 桃井緑美子, 吉田周平. 専門家の政治予測 : どれだけ当たるか?どうしたら当てられるか? 東京, みすず書房, 2022, ISBN9784622095507.
2)Tetlock, Philip E. (Philip Eyrikson), Gardner, Dan, 土方奈美. 超予測力 : 不確実な時代の先を読む10カ条. 東京, 早川書房, 2016, ISBN9784152096449.
3)Tschoegl, Adrian E., and J. Scott Armstrong. “Review of Philip E. Tetlock, Review of Philip E. Tetlock, Expert political judgment: How good is it? How can we know?.” (2007).