この記事まとめ
・人間はネガティブな時には自分のネガティブさが際立つ比べ方をしてしまいます。またポジティブな時に他人と比べても調子に乗るだけなので、人間は上手に他人と比べることができません。
他人と比べない為にはマインドフルネスやCBTで比較をしたくなる一歩前に対策をすることが重要です
「人と比べるのをやめることで、本当に幸せになれるの?」
そう思うかもしれませんが、私の答えは「イエス」です。
この記事ではどうして人と比べることで幸せになれないのか?比べる事にはどんなダークサイドがあるのかということについて心理学のエビデンスを元に解説しています。
他人との比較による心理的な落とし穴や、比較をやめる実践方法について学び、つい他人と比べたくなるワナから脱出しましょう!
心理学的には人と比べることで何が起こるのか?
人と比べることには適切適量であれば「気分が良くなる」「やる気が出る」というハッピーなメリットもあるのですが、他人と比べることのダークサイドについても理解しておく事は重要です。
というよりも、デメリットの方が多すぎるので、他人と比べることは取り扱いがかなり難しいというのが結論になります。
人と比べることの落とし穴と心理的デメリット
そもそも、私たちが他人と比べたくなる時はどんな時でしょう?
「自信満々で自分はオッケー!素敵なパートナーもいて、人生幸せで問題なし!」
そんな時は他の人など知ったことではないですよね。
「どれ、ひとつ下々の者がどうしているか見てみようではないか」
という悪い貴族のような人もいるかもしれませんが、幸せな人は自分の人生を楽しむのに忙しいのがデフォです。
私たちが人と比べたくなるのは、自信がない時・自分が不安になった時が多いです。
「他の人はできているのに、自分だけできていない」「自分は普通じゃないのかな?」そんなふうに他の人のことが気になり比較をし始めます。
ですが、この自信がない時や落ち込んだ時に人と比べるというのが非常にマズい事態を引き起こすのです。
この他人と比較することについて調べたWheelerらの研究によると、
- ネガティブな気分の人は、自分より上の人と比べる傾向があった。しかも自分より上の人と比べることは主観的な幸福度を低下させる
- 一方で、自分より下と考えている人との比較は幸福度を高めるようだ
- 高い自尊心を持つ人は自尊心向上につながるような比較をする傾向があった
というわけで、ネガティブな時に他人と比べるとより落ち込んだりダークサイドに落ちちゃう可能性があるわけです。
落ち込んでいる時はよせばいいのに自分よりすごい人や成功している人と比べてしまうということですね。その結果より劣等感を感じて落ち込み不幸だと感じてしまうのだと。
まさに泣きっ面に蜂、他人と比べることは自分を追い詰めることになりかねないのです。
自信を持つために人と比べることにもメリットがない
じゃあ自分の下と思っている人と比べることは幸福度を高めるからいいんすね、と思うかもしれません。
どう考えても人間的に健全ではなさそうですが、自尊心を高めるという意味ではこの意見にも一理あります。
ただし、この意見は一理あるだけにすぎません。
なぜなら、自分より下と考えている人との比較で高めてくれるのは自尊心だけであり、実際に能力が高くなったりエラくなるわけではありません。
このような他人との比較はイキることには役立つかもしれませんが、問題の解決には何の役にも立たない点を忘れてはいけません。
多くの場合それは過信となり、後述する「逆境で一気に崩壊する人あるある」にドハマりするため、あまりおすすめできません。
では落ち込んでいる時の応急処置として他者との比較を使うのはどうでしょうか?
「つらいけど、自分はまだマシだ」と考えてみるわけですね。これはイケるのではないか?
このアイデアは一見良さそうですが、残念ながらこれも難しいです。
なぜかというと、落ち込んでいる時は自分の悪い考えに目が向きやすいため、そもそも自分の良いところに焦点を当てて比較すること自体が難しいのです。
つまり、気持ちが落ち込んだ時の応急処置として人と比較しようと思っても悪いところばかりに目がいく。ヘタな比べ方をしてしまうのが人間というわけです。
このネガティブな時はネガティブな思考ばかりに目が向くことを論文では「選択的感情認知プライミングモデル」という舌を噛みそうな理論で説明しています(覚えなくていいです)。
まとめますと、人と比べることは
- 自信を失った時に回復させる事には役立たないが
- 調子が良い時にイキって悪ノリする事には役立つ
というわりとどうしようもないシロモノなのです。
よって、「人と比べない方がいいよ」というのは心理学的にも正しいと言えるでしょう。
人と比べる人によくあるケースとやめた結果
私が見かけた他人と比べて苦しんでいる(ように見える)人や、自分が比較のワナにハマった具体例について紹介します。
比較をやめると人間関係を作るのがうまくなったりする
まず自分に自信がない人が、他人と比べて自信を失うという負のループにハマっているタイプです。
よせばいいのにオートで他人と比べて苦しんでしまうのですからなかなかしんどそうです。
「私なんて…」
と常に頭の中をグルグルしており、劣等感を感じています。
この手の人は他人に害を加えるわけでもないし、むしろ「他の人の役に立ちたいけれど自分なんて…」と自分のことをいじめてしまうタイプです。
このような思考に思い当たる方は、他人との比較→落ち込みの負のループを打ち切るのが最優先です。
この負のループによりニセの劣等感や自尊心の低さが出現している可能性があります。
この手の人は自分でじぶんをいじめているだけで、実際にはなんの問題もなかったりします。
ミスをしたり、欠点だと思っているものは「みんなに当てはまること」でしかなかったりするのです。
たとえば、「大谷翔平選手と比べて私の年収なんて…」と比較して落ち込んでいる人を見たらヘンだと思いますよね。
冷静になって考えると「まあ私もそれなりにようやっとる」と、比較して落ち込むこと自体が無意味なことがわかると思います。
これは極端な例ですが、あなたの周りのプチ大谷翔平選手と比べてませんか?ということです。あなたが大谷選手レベルでなくとも、たいてい何の問題もありません。
このタイプの人が比較をやめると元々気遣いができるタイプだったりしますから、その繊細さを生かすことで人間関係を作るのがめちゃめちゃうまくなる事があります。
比べることに夢中になりすぎるあまり自分の生かし方を知らなかっただけ、というパターンですね。
このタイプの人はぜひ後述の対策を試して比較のワナから抜け出してみてください。
他人と比べて調子に乗る人は失敗で一気に崩れる
一方で、よりダークサイドの闇が深いタイプの比べ方をしてしまう人もいます。
調子の良い時には人と比べて他人を見下し、そして調子が悪い時は人と比べて落ち込むタイプです。
このタイプは失敗や逆境に直面すると、一気に総崩れします。
その落ち方たるや尋常なものではなく、一気に地の底まで突き落とされるような感覚になります。
しかもこの行動パターンは非常にあるあるです。
出会って数回会うだけで「ああハイハイ、このパターンの人ね」とわかるくらいです。
なぜこのような極端で、しかもわかりやすいパターンのことが起きるかというと、調子の良い時の他者と比較が自分を苦しめるからです。
先ほどの論文の通り、落ち込んでいる時は自分の悪い思考に注意が向きますが、人間調子の良い時は自分の良い思考ばかりに注意が向きます。
ここで調子に乗りすぎてイキると、周囲に「なんでこんなこともできないんだ」「これくらいできて当然」とばかりの傲慢な言動で接することになります。
人をばかにすると言ってもいいでしょう。
ですが、ひとたび自分が失敗したり落ち込んだ時に、この比較が自分に牙を向く事になります。
人間には良い時も悪い時もあります。得意もあれば不得意もあります。
運がよい時もあれば不運に見舞われる時もあります。すべて当たり前のことです。
それを考えずに調子が良い時に他人と比べて見下しイキりまくると、いざ苦手分野や流れが悪い時にいままで比較しばかにしていた言葉が自分に向かい始めます。
「なんでこんなこともできないんだ」
「これくらいできて当然」
他人に言われるなら「なにいってんのこいつ」と聞き流せるかもしれませんが、自分から出た言葉はそうはいきません。
自分が勝手に作ったルールで今度は自分が裁かれるわけですから、「他人には厳しいことを言うくせに、自分はできていない口だけのやつ」と、自分を必要以上に苦しめることになります。
このような横暴なルールで動いてしまえば、ミスや欠点が発覚した時に周囲に冷たい態度を取られることもあるでしょう。
内からと外から、同時に責められてしまうわけです。
この手のタイプはミスをするまではそれなりに機能しますが、ひとたび逆境や失敗があるとメンタルよわよわになり、まるで役に立たなくなってしまいます。
確かに下と考えている人と比較すると幸福度は高まりやすいのですが、下と比較できなくなると幸福度も自尊心も一気に失います。
だからこそこのタイプはなかなか比較をやめられないのです。
しかし、この手のタイプもマウントを取ることのデメリットを知ることで少しずつ落ち着いてくることがあります。
詳しくは人の恨みは恐ろしい:心理学で学ぶ恨みと嫌悪の違いとリスクの過去記事を参照していただければと思います。
相手に敬意を払わず、恨みを買うことほど危険なものはありません。
「普通の人」と比較することをやめた結果
「別に身近な人と比べるわけでもないし、言動にも出してないけど、私ってそこそこモテると思うんだよね」
このような具体的な相手のいないの比較であれば、害は少ないと思うかもしれません。
しかしこの「私って普通の人より優秀」パターンの比較をする人も要注意と言わざるを得ません。
この「なんとなく私って優秀」と思うことを平均以上効果といい、心理学でも散々研究されまくったバイアスです。
Alickeらの研究によると、この平均以上効果は具体的に比較することで軽減される2)とあります。
つまり、「具体的に誰かと比べたわけではないのだけれどなんとなく自分は他の人よりイケてる」と思うのは人類共通の思い違いというわけです。
具体的には以下のような他人との比較になります。
- 自分って普通の人よりかっこいい・かわいい
- 自分って普通の人より頭いい・よく考えている
- 自分って普通の人より働いている・苦労している
- 自分って普通の人より優しくていいヤツ
このような比較は要注意です。
多くの場合、あなたも私も普通くらいだと思います。分野によっては平均点以下も十分ありえます。
もし平均以下だった場合、普通の人より優れているとあぐらをかいていた場合、めっちゃ恥をかくことになります。
身近な例で言えば、すごくモテるわけでもないのにいい女ぶる人いますよね。アレです。
今思うとアレは非常に恥ずかしいものがあります。みんな気をつけろ!お世辞を真に受けるな!
私たちはこの平均以上効果を自覚することによって、
「私って別に平均以上じゃなくね?」
「まず少しやせてみよう」
「よく考えたらこの服めっちゃダサくね?」
「初対面でいきなりメタ分析の話をするとスベるからやめよう」
といった痛みを伴った気づきと改善のための学びを得ることができます。
こうして現実と向き合い問題点をクリアしていくことで、私も少しずつ真人間になることができました。
繰り返しますが、平均以下だと自覚しない限り改善はありませんからね。
この自分の欠点やネガティブな自覚は難しいと言うのは他の研究でも言われていまして、欠点を受け入れて改善していくっていうのは実のところかなり難しいんです。
このことについては自分を知るのにネットの性格テストは当てにならない、自分を知る科学的方法という内容を過去記事で解説していますので、そちらも参照してください。
とまあ、私たちは平均以上効果について理解することで、普通の人よりも一歩も二歩も賢く成長できるわけです。
…ん?普通の人より…?
人と比べるのをやめるための実践法
どうも人と比べるとハッピーになれそうにない、逆に比べるのをやめるといいループができそうだということまではわかってきました。
では、具体的にどうすれば人と比べることをやめることができるのでしょうか?
やはり鉄板は認知行動療法(CBT)
まず王道になりますが、認知行動療法(CBT)はやはり外せません。
自信がない人が他人と比較をするパターンが多いですから、この「自尊心の低さ」から叩いておく方がよいです。
具体例を用いて、CBTについて学んでみましょう。
たとえば、あなたが仕事でうまくいかず落ち込んでいるとします。
落ち込んでいる時の考え
「自分はミスばかりしてだめだ、この仕事は向いていないし、自分を受け入れてくれる職場なんてどこにもないんだ!(だって、同期の◯◯ちゃんは楽しそうに働いているしみんなにも好かれている、それに比べて私は…以下負のループ)」
CBTを使った考え
「確かに仕事でミスをすることもあるけど、提出期限には遅れず出している。上司から書類の指摘をされることもあるけれど、以前よりはミスが減っているのも事実だし改善できている、仕事に向いていないというのは決めつけだ。誰しも最初からうまくいくわけじゃないから指摘されたことをメモして確認していけば大丈夫だ。それに、今は労働人口も減っているから職場は他にもいくらでもある」
CBTを使うとこのように考え直すことができます。
落ち込んでいる時の考えはネガティブなことばかりに目が向き、かつ極端なことがわかるでしょうか。
一方CBTを使った考えはマイナスばかりではなくプラスの面にも触れており、考え方のバランスが取れています。そして自分の極端な思い込みも考え直すことができています。
そして、上の考えと下の考え、どちらの方が健康的だと思いますか?
どちらの方が自分の成長のために動いていけそうですか?
落ち込んだ時の考えは負のループに入るため、自分のことだけではなく「同期の◯◯ちゃんの動向」という自分にはどうしようもない方向に注意がそれ、結果的に自分の改善から目を背けることになってしまうのです。
他の人のことを気にする前に自分のことやんなさいよ、ってやつですね。
CBTを使って考えを修正することで、現実を正確に理解できるだけではなく、自分のことに注意を向けて改善・成長する良いループに入っていくことができるでしょう。
CBTを使いながら自分の目の前のことや解決する問題に集中していくと、自ずと他人との比較は減っていくことが多いです。
つまり他人と比較する一歩前で対処してしまおうというわけです。
認知行動療法を自分でやるならバーンズ博士のいやな気分よさようならが良書ですので、ガッチリ対策したい方はこちらを一読ください。
マインドフルネスで自己観察を深める
次に、マインドフルネスで自分の良い点も悪い点も受け入れることが挙げられます。
自分のミスや欠点が発覚した時に、「他の人が間違っている!」「いや、これは違うんだよ」と現実を否定する方向にエネルギーをそそげば傷つくことはないかもしれませんが、欠点が直ることはありません。
逆に、不安に思ってもOKだし、自分に欠点があったりミスがあるのもまあそんなもんだ、そう受け入れて改善する方向にいけば良いループに入れますよね。
受け入れて改善に向かうためのマインドフルネスについては自分を知る科学的方法の後半で解説していますので、具体的なマインドフルネスの方法についてはそちらも参照してください。
マインドフルネスを行うことによって自分の考えを自覚しやすくなりますし、自分の欠点も「ただ、あるだけ」「あるものは仕方がない」という前向きな諦めのようなマインドになります。
たとえばミスをしても「やっちまったもんは仕方ねぇ、今できることやるしかない!」となれば、「私ばかりミスをして…他の人はちゃんとしているのに…」とウダウダすることもなくなるわけです。
この「しかたねぇな」と腹をくくることを専門用語ではアクセプタンスというのですが、この習得に関してはACTのテクニックが鉄板でしょう。
ACTには認知行動療法のエッセンスも入っており、第三世代の認知行動療法と呼ばれています。
ACTを解説した本はたくさんありますが、武藤教授のACT 不安・ストレスとうまくやる メンタルエクササイズあたりが一般向けでわかりやすくおすすめです。
本腰入れて対策していきたい方は手に取ってみてください。
引用・参考文献
1)Wheeler, Ladd, and Kunitate Miyake. “Social comparison in everyday life.” Journal of personality and social psychology 62.5 (1992): 760.
2)Alicke, Mark D., et al. “Personal contact, individuation, and the better-than-average effect.” Journal of personality and social psychology 68.5 (1995): 804.