自分を知る方法を科学で探る!ネットのテストは信じて良い?

心理学

自分の事をもっと知りたい!」「自分の強みや弱みってなんだろう?

そう思うことはありませんか?

たとえば人生で大きな悩みにぶつかった時や、就職など大きな転機では自己分析や自己理解が重要になります。それにどんな人間かわかっていれば強みを活かし、弱みも克服していけます。

しかし研究によると、どうやら自分を知るというのは想像以上に難しいようです。

なぜ自分を知る事が難しいのか?また科学的に正しい自己分析の方法とは何か、いつものようにエビデンスを元に解説していきましょう!

自己分析してもほとんど自分を知る事ができていない

今回参考にするのは2024年Christoph Heineらの研究で、「真の自己認識の探究:自己洞察の動機と個人差」とったタイトルになります。1)

詳細は以下の通りですが、いつものように後からわかりやすく解説しますので安心してください。

  • 人間には自分について正確な事を知りたい!という自己洞察動機がある。自分自身への洞察を深めることは、自分を改善・向上させたり自分を肯定的に見ることと関係している。
  • 自分自身への洞察を深める方法としてアプリに記録したり、ネットの性格・知能テスト友人からフィードバックをもらうなどがある。
  • しかし、自己洞察動機が高い人低い人、どちらも正確な自己認識はできておらず、自己洞察と正確な自己認識との相関は弱いかほとんどゼロだった
  • この理由として、そもそもネット上には妥当性が低く疑わしいテストや質問がほとんどで意味のない情報を受け取っているためだと思われる。さらに、社会的な状況でも情報の有効性が欠ける(フィードバックで忖度してしまう)
  • 有効なフィードバックと無効なフィードバックを区別する力を向上した場合のみ自己洞察は向上する
  • さらに、自己強化動機(自分を肯定してほしい)や自己防衛プロセス(都合の悪いことは聞きたくない)もフィードバックの統合に影響してしまい、本当の自分を知ることが一層困難になる

というわけで、「あなたは◯◯タイプ(はーと)」みたいなネット上に転がっている性格分類テストなどは自己分析にはほとんど役に立っていなさそうです。

ネット上の自分を知る方法がほとんど役に立たないワケ

ネット検索すればいくらでも出てくる自己分析ツールやテストですが、これがなかなかクセモノのようです。

その理由について詳しく解説していきましょう。

理由1:そもそもネット上の診断は怪しく役に立たない

ネット上には自己分析をするためのツールがたくさんありますが、そのフィードバックの質がかなり悪いという事が論文では述べられています。受け取り手の問題ではなく、情報自体の質が悪いというパターンですね。

確かにオンラインに転がっている性格テストだの知能テストだののほとんどが妥当性を検証をしているようにはみえません。ひろゆきさん風に言えば「それってあなたの感想ですよね?」状態です。これはおみくじが自己分析に役立たないのと一緒です。

え?別にそこまで厳密性は求めてない?いいでしょう、妥当性を検証していない事の意味を一緒に確認してみましょう。

妥当性が検証されていないという言葉をわかりやすい日本語で言い換えると「言ったもん勝ち」です。

正しいかもしれないし正しくないかもしれない。確認はしていなので信じるか信じないかはあなた次第です、と都市伝説レベルの信頼性しか持ち合わせていないという事です。

たとえば「人の顔色が気になることが多いですか?それはあなたが火星人の血を引いているからです」という意見には妥当性は検証していませんが可能性はゼロではありません

ゼロではありませんが‥本当に信じて参考にしますか?私は信じません。

このような質の悪いフィードバックを間に受けてしまうと自分を知ろうと意欲的に行動しているにも関わらず何もわかっていないというドツボにはまることになります。

要するに相談相手をミスっているわけで、ドツボにはまるのも当然ですね。

参照する情報が大切というのはどの分野にも言えることです。あなたが仕事で行き詰まっているならまず信頼している同僚や先輩の意見を聞くべきだと思います。

ですがここでいきなり自己啓発セミナーに行って「宇宙に感謝!全てにマジ感謝!」とラッパーみたいな事を言ってる人の意見を参考にしても解決しないことが多いのです。

テストも相談も、なにごとも意見を聞く相手は選びましょうってことですね。

理由2:悪いテストの結果を受け入れられないので自分を知るのに役立たない

では、あなたは運よく妥当性のあるテストを受けていたとしましょう。この場合も自分を知るためには高いハードルがあります。

まず、あなたは自分について本当の事を知りたくて自己分析をしたいのでしたね。しかし自分について本当の事を知り自己改善や戦略に生かそうとする場合、自分にとって面白くない結果も聞かなければならないということを覚えておく必要があります。

私のBIG5による自己分析経験談

たとえば私がBIG5テストを行った場合を例に挙げましょう。

私はパーソナリティ因子が極端なため「頑固」だの「過度の自己評価」だの「何言ってるかわからないことがある」だの面白くないワードがテスト結果としてわんさか出てくる事になります。本当におもしろくもなんともない

ですが、これが私のリアルであり改善していくための突破口でもあります。そう、私は頑固で自己評価が高すぎる何を言っているかわかんないヤツなのです。

そ、そんな!私はマジメで謙虚ないいヤツだ!」と弁明したい気持ちを一度置いといて、このネガティブフィードバックと向き合うというのは覚悟が決まっていないと結構しんどいです。

しかしネット上ではそんな面白くないネガティブワードアクセス数が稼げないため、心地よいに変換されていることがよくあります。

これは私たちが行う面接の自己アピールのようなもので、「頑固と言ったらマズいから一度決めたことは投げ出さず真面目にやり通すと言っておこう」と言い換えるようなものです。

ですが真面目にやり通すというのはあくまで誠実性が適切なレベルに保たれている人の話であって、頑固な人は言葉を変えても頑固な人です

言い方だけを変えても頑固な人は社会でそれなりの問題が発生します。言い換えて自分を肯定しても何の解決にもならないのです。

にもかかわらずなぜこのようなを使うかというと、やはり人間は自分に対するネガティブなフィードバックを受け入れることができないからです

「あなたはすごく頑固だから社会に出たら問題が起きるよ。彼氏なんてできないよ」と言われたら「なんだと!そんなことはない!」と反発するため自己分析が進むことはありません

ですが「真面目で誠実だ」と言えばスッと心に入ってきていい気分になります。その代わり頑固が正当化されたため修正されることはありません

この自分にとって肯定的な情報を知っていい気分になりたいという事を「自己強化動機と言い、これが自己洞察を一層困難にします。

自己洞察に役立たない究極のフィードバック、占い

この自己強化動機を極めた職業があります。占い師です。

ここでは占いが当たるのかどうかについては俎上に載せません。大事なのは占い師の伝え方、言い回しです。(私のような頭の固い人間と違って)占い師は相手の受け入れやすいワードを選ぶ言葉のプロフェッショナルです。

たとえば、「優柔不断が災いして他力本願ゆえに人生がいい方向に進んでない」とアドバイスしたいとしましょう。

これを科学者と占い師、2人からアドバイスをいただいてみましょう。

科学者「あなたは自分の事すら自分で決められないからダメなんですよ。他力本願で自分でリスクを取る覚悟がない。自分の人生を他の人に任せきりだからうまくいかないんですよ。この結果は必然です。今改善の努力しないとずっとこのままですよ」
占い師「あなたは優しすぎるから他の人に気を遣ってしまうんだよね。自分のことを二の次にしてしまうから、周りに配慮をしてなかなか踏み出せないでいる。でも、たまにはもっとわがままになってもいいのですよ。このカードが意味するのは挑戦、まじめで優しいあなたには時が来れば踏み出せるからチャンスは必ず来るから焦っちゃダメ今はその時ではない事を、賢いあなたはなんとなくわかっているんでしょう」

科学者は理路整然と論理立てて話してくれています。科学者というよりオカンですが、聞いていて面白くありません。

ですが占い師は相手が受け入れやすい形にあま〜〜く加工してフィードバックをしてくれます。一方、科学者のような正論全力ストレート苦くて拒否されてしまいます。

ただしあま〜〜く加工した代償もあります。先ほどのように優柔不断で他力本願な事を「優しく他の人を気遣う素敵なあなた」というに変換した場合どうなるでしょう?

この心地よいワードは今の自分を正当化する方向に働きます。つまり自分で決断して自分の人生の責任を自分で負うという本来やらなければならない困難から逃げることができるのです。

キラキラワードは慰めにはなるかもしれませんが、このフィードバックを受けた場合、一生何もしないで終わる可能性があります。なぜなら自分を正当化するような甘い言葉だからです。

これをコールドリーディングでは「シュガーランプ2)と言い、相手を信じさせるテクニックの一つとして取り上げられています。このシュガーランプは相手を自己洞察動機から自己強化動機にすり替えるテクニックでもあります。

自分を肯定してくれていい気分にはなるかもしれませんが、自分を知るためには逆効果です。なぜなら自分のリアルを見つめようと努力する人を、「こっちの方が楽で気分がいいよ」とめくらましをして沈めようとする行為とも言えるからです。

ネット上の妥当性の怪しいテストも同様のことが言えます。テストを受けてすごく気分が良くて納得感があったとすれば、シュガーランプにやられている可能性があります。

どんなに優秀だろうとあなたが1人の人間である限りいいフィードバックばかりという事はあり得ず、時に自分のネガティブでつらい一面も受け止めなければならないからです。

自己洞察というのは自分の弱いところと向き合い、改善という苦しい道を進まなければならない事もあります。ただ気分が良くなるだけなら、それは自己強化動機に沈めようとしているのかもしれませんから気をつけましょう。

ガチで自分を知るための科学的根拠のある方法とは

ではガチで自分を知り、改善していくためにはどうすればいいのでしょうか?その方法について解説していきます。

マインドフルネス瞑想によって自分を知る土台を作る

2013年Carlsonらのレビュー論文によると、自分の洞察のためにはマインドフルネスだ!といった事が言われています。詳細は以下の通り。

  • やはり自分のネガティブな情報については盲点がある!このせいで自分を過大評価したり、自分を知ることが難しくなっている
  • 自分への洞察を深めるにはマインドフルネスが良さそう!特に「今ここに注意を払う」「評価をせずありのままを受け入れる」といった側面が自分を知る事への道になりそう
  • その理由として、自分に対する情報の量と質が改善されること、またネガティブな情報に対する自己防衛的な反応も抑えられるためっぽい2)

といった事が言われています。

つまり自分に対する情報を正確に・感度よくキャッチでき、「自分ってこういう所があるんだな」と気づく事ができるわけです。

たとえば「自分はイライラして焦っているようだ。どうやら自分は予定通り進まないと短絡的な解決法を選ぼうとしてしまう傾向があるらしいな」と気づけるわけです。

さらに、「そういう短気なところもあるんだな」「自分は神経質な所がある」というネガティブな自分をありのままに受け入れやすくもなるのです。

このように気づいて受け入れさえすれば対策が打てますから、これはとても有用な情報です。むしろイライラしているフリをして相手の裏をかいたりする事もできます。

マインドフルネスに加えてジャーナリングがおすすめ

慣れればその場で気づくことができるのですが、慣れるまではマインドフルネス瞑想と併用して「ジャーナリング」を行う事をおすすめします。

ジャーナリングは過去記事で紹介しましたが、自分の考えたことや感じたことを事細かに書くというものです。このジャーナリングとマインドフルネスの相性が良く、事細かく感情や考えを言語化していくために併用するのはアリアリです。ジャーナリングについての詳細は過去記事人の心を読む能力はコールドリーディングで習得!その練習方法とは?を参照していただければと思います。

マインドフルネスによって素直に受け入れられる

さらに、言語化する事によって自分のネガティブな側面と向き合う事になっても「自分には欠点もある、でもあるものは仕方がないな。いいところもあるし」といったように否定的にならずにそのまま受け入れる事ができます。

私の経験としてもマインドフルネス瞑想を継続していくことで「思ったより自分の姿勢って曲がっていたんだな」「近視眼的な考えになりやすいんだな」と気づくことができましたから、自分がどのような状況なのかを知るためには有効かもしれません。

マインドフルネス瞑想について詳しく知りたい方は過去記事の5年間続けた瞑想の経験とエビデンスをブログにまとめてみたも参照してみてください。

自分の性格を知るにはBIG5

「私はマインドフルネスもできているしネガティブな評価を受け入れる覚悟はできている

そんな方はもっと自分に対するリアルな情報を得たいと思うはずです。何を知りたいのかによりますが、性格面に関するものであれば私はやはりBIG5をおすすめします。

この時に、できればBIG5に関する書籍を読んで自己分析を進めていくのが望ましいと思います。なぜなら、ネット上では「シュガーランプ」の可能性が高くなるからです。書籍としてはファッション心理学のような軽いものより引用のしっかりした本の方が良いです。ここで間違ってイラスト多めのファッション心理学を手に取ってしまうとやはりシュガーランプの餌食です。私たちはあっま〜い言葉ではなく、忖度なしに「この特性はこういうネガティブな点もある」という事実を話してほしいのです。

具体的な本を挙げるならパーソナリティを科学するがおすすめです。性格特性のあっま〜い側面だけではなく光と闇両面について記載されています。「私は自分のリアルに向き合う覚悟ができている、忖度なんていらねえぜ」と覚悟が決まっている方はこの本からスタートしてみると良いでしょう。何とは言いませんが、ネット上の某テストを参考にするよりはマシだろうと私は思います。

「自分のいいところを知りたい!強みを活かしたい!」というも大事ですが、やはり「自分にはこういう弱点もあるから気をつけておこう」という事が自己改善には重要で、かつ結果が出やすいと経験上感じています。なぜなら大失敗の多くは自分の弱点が絡んでおり、「何をすればよいか」よりも「何をしないか」の方が大事な事が社会では多いからです。

社会では気に入られる話術を磨くよりも、社長の前で足を組まない事の方がすげえ大事だったりしますから。ですから自分の欠点や弱点を見つめなおしておく事が効果的だったりします。ぜひ今回の知識を自己分析に役立ててみてください。

引用・参考文献

1)Heine, Christoph, Stefan C. Schmukle, and Michael Dufner. “The quest for genuine self-knowledge: An investigation into individual differences in the self-insight motive.” European Journal of Personality (2024): 08902070241272184.
2)Carlson, Erika N. “Overcoming the barriers to self-knowledge: Mindfulness as a path to seeing yourself as you really are.” Perspectives on Psychological Science 8.2 (2013): 173-186.

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